<金口木舌>お門違いな抗議

 「竹やりでは間に合わぬ/飛行機だ、海洋航空機だ」。1944年2月、毎日新聞が記事を掲載した。太平洋戦争の戦況が悪化していた。記事は陸軍の怒りを買い、執筆した記者が徴兵される事態に発展。「竹やり事件」と呼ばれた

▼事実を伝えるのが新聞だ。戦前、戦中の新聞は言論統制などにより事実を正確に伝えなかったが、この程度の言説さえ軍部は敵視した

▼自衛隊が運営する高齢者向け新型コロナウイルスワクチンの大規模接種センターで、架空の情報でも予約が取れる状態だったことが分かった。防衛省はシステムの一部を改修する方針だ

▼岸信夫防衛相は「当初から修正しておけばよかった」と不備を認めた。一方、架空情報で予約が取れることを検証した朝日新聞出版や毎日新聞に「悪質な行為であり、極めて遺憾だ」と述べた。防衛省は抗議文を両社に送った。安倍晋三前首相もツイッターに「朝日、毎日は極めて悪質な妨害愉快犯と言える」と投稿した

▼報道がシステムの不備を明らかにし、防衛省は改修に動いた。不利益を被る国民が減ったのではないか。事実を伝えた報道を敵視するのなら、戦前の軍部と何が違うのか

▼共同通信の世論調査で政府の新型コロナ対策を評価しない人は71.5%だった。お門違いな抗議でお茶を濁すのではなく、国民の不信感をぬぐう政策が政府に求められている。

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