尾野真千子「最高の映画。命をかけて撮った作品。劇場で観て欲しい」 大粒の涙で訴え 「茜色に焼かれる」

石井裕也監督、尾野真千子主演の映画「茜色に焼かれる」の「公開前夜最速上映会」が、公開初日前夜の5月20日に川崎市で開催され、出演者の尾野真千子、和田庵、片山友希と石井裕也監督が登壇した。

現代の生きづらさの中にも石井監督らしい希望が描かれていると指摘を受けた石井監督は、「もちろん今を生きるのが大変、つらい、苦しいというのは誰でも言える。その中で希望のようなものを見いだすのが表現者としての気持ち。少しでも前向きな映画になっているとしたら、尾野真千子さんの存在が大きかった。この人にしかできない役だったし、この人にしかできない映画だったと思います」とコメント。尾野も「台本の中に含まれている、すべての物語が今、自分でやらなきゃいけないものが詰まっていて。本当に魅力的な台本だったんです」と振り返った。

共演者の和田庵と片山友希も、尾野の存在に助けられたという。和田は「最初は、正直に言うと怖い方なのかなと思っていたんですが、初めてお会いした時からそんなことはなくて。本当に明るくて優しい方でした。現場でも本当の親子のように接してくれたので、僕も肩の力を抜いて、自然な演技ができたんじゃないかなと思います」と尾野への思いを述べた。片山も「現場でも『コーヒーを飲む?』『お昼、一緒に食べる?』と話しかけてくれて。尾野さんの明るさに助けられました。わたしはすごくかっこいい先輩とお芝居しているんだなと思いました」と感激の表情を見せた。

脚本も手掛けた石井監督は、本作の母親は尾野真千子を想定して書いたことを語り、「この母親を演じられるのは尾野さんしかいない。最初から尾野さんにオファーをしようと思っていたし、尾野さんからやらないと言われたら辞めようと思いました」という強い思いを抱いていたという。そして、「尾野さんも死ぬ気でやっていたのが分かったので。そういう尾野さんの思いに応えるためにも、こちらも本気を出さないといけないなと思いました」とコメント。さらに、「同じ方向を見て戦いあった、高次元の関係性を結ぶことができた」と自負を見せた。

劇中では主人公の良子が、信じていた“とある男性”にだまされて、女性としての尊厳を著しく傷つけられるシーンがある。そのシーンを振り返った尾野は、「久しぶりに撮影中に(役から)抜け出せなくなって。『監督、時間をちょうだい』と言いました。でもそれは自分が全力でここにいるからだと思って、うれしかったんです。一歩、自分を引いて見た時にこんな自分もいたんだな、これも自分なんだと思って。40(歳)間近にして、自分を見つめ直した時間でした」と語る尾野。本作を通じて「変わることができた。今の年齢でそう思えたのは幸せですね」と付け加えた。

最後に尾野は、涙を浮かべながら「この映画はわたしにとって最高の映画です。もうコロナ関係なく言います。劇場で見てほしいんです。怒られるかもしれないですけど、皆さんと手と手をとりあって見に来てほしいんです」と訴えた。さらに、命をかけて撮った作品です。こんなやりにくい状況の中で、わたしたちの仕事はもうできないかもしれないという恐怖が襲ってきて。でも今、みんなとこういう作品を伝えないといけない。それがわたしたちの使命だと思って。スタッフも、出演者も、監督も、お金を集めてくれた人も、場所を貸してくれた人も、みんな命がけでやりました。こんな最高な作品はありません。ぜひ劇場でみていただきたい。そういう気持ちで作りました」と切々と語った。そして振り絞るように「泣いてすみません。でも皆さんが笑って劇場に来てくださるよう。コロナに負けるな。頑張ろうね」と、メッセージを送った。

「茜色に焼かれる」は、弱者ほど生きにくい時代に翻弄される一組の母子を描いた作品。哀しみと怒りを心に秘めながらも、わが子へのあふれる愛を抱えて気丈に振る舞う母と、その母を気遣って日々の屈辱を耐え過ごす中学生の息子。2人のもがきながらも懸命に生きようとする姿が描かれる。監督・脚本・編集を務めるのは、「舟を編む」「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」などの石井裕也監督。前向きに歩もうとする母親・田中良子を尾野真千子が演じ、息子・純平を「ミックス。」などの和田庵が演じている。ほかに、片山友希、オダギリ ジョー、永瀬正敏が出演している。

【作品情報】
茜色に焼かれる
2021年5月21日(金)、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
配給:フィルムランド
©2021『茜色に焼かれる』フィルムパートナーズ

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