東京パラは史上最も重要な大会、今こそ不平等に光を IPCパーソンズ会長が訴える開催意義

2018年3月、平昌冬季パラリンピックの閉会を宣言するIPCのパーソンズ会長=韓国・平昌(共同)

 国際パラリンピック委員会(IPC)のアンドルー・パーソンズ会長(44)=ブラジル=が、開幕まで100日に合わせて共同通信のインタビューに応じ、新型コロナウイルス再拡大で開催可否に揺れる東京パラリンピックについて「パラ史上最も重要な大会になる」と語り、中止や再延期の可能性を改めて否定した。「パンデミック(世界的大流行)は不平等に直面する障害者の現実を改めて浮き彫りにした。社会で十分な支援が行き届かず、世の中が分断の危機にある今こそ不平等に光を、世界で15%の障害者に光を当てたい」と開催意義を訴えた。(共同通信=田村崇仁)

オンラインでインタビューに答える国際パラリンピック委員会のアンドルー・パーソンズ会長

 ▽パラのみ中止の最悪シナリオは考えず

 ―変異株の拡大で世論の逆風は収まらない。中止は考えないのか。

 「感染拡大で何が起こるか分からない恐怖があり、世論の批判や不安も理解できる。最優先は選手や日本国民の安全だ。参加者向けに公表されたプレーブック(基準集)第2版でも示された通り、前例のない厳格なコロナ対策で安全な大会を開催できる自信はある。もっと情報を共有し、理解を深めることでムードは変わると信じている」

 ―仮定の話だが、五輪開催で感染が拡大し、パラが中止となる最悪のケースは想定しているか。

 「そんなシナリオは考えていない。パラだけの中止は想定していないし、その逆もない。五輪とパラは同じコロナ対策の措置を取り、運命共同体で二つの大会を開催する計画だ。五輪閉幕後に移行期間中の約2週間で、選手村や会場を消毒する時間は十分にある」

連携協定の契約書を手に写真に納まるIPCのパーソンズ会長(左)とIOCのバッハ会長=2018年3月、韓国・平昌(共同)

 ▽批判理解もアスリートへの矛先は違う

 ―最近は国際オリンピック委員会(IOC)や大会組織委員会だけでなく、開催を望むアスリートも批判の対象になる。

 「民主主義だからさまざまな意見があるのは理解できる。先行きが見えない不確実な社会で、未曽有のパンデミックが怒りや疑念を生むのだろう。ネガティブな主張も分かる。ただし、もっとどう大会を開催するのか情報発信すれば、不安が解消される。怒りを選手に向けるべきでない」

 ▽無観客開催も容認

 ―6月に判断を先送りした観客上限について何か考えはあるか。

 「これは日本当局が判断する措置で、無観客開催でも観客制限でも日本側の判断を尊重する。2016年リオデジャネイロ大会では、約240万人の観客が会場でパラを観戦した。世界では約40億人がテレビを通じて競技を楽しんだ。もちろん満席のスタジアムが理想だが、インターネットも発達した今の時代はどんな形でもアスリートの輝きを世界に伝えることが可能だ。それがレガシー(遺産)として日本だけでなく世界に残る」

東京パラリンピックの開催まで100日のセレモニーで記念写真に納まる(左から4人目から)小池百合子都知事、橋本聖子・大会組織委会長、丸川五輪相、鳥原光憲・日本パラ委員会会長ら=16日午後、都庁(代表撮影)

 ―現状、参加国や選手の規模はどうか。

 「最新のデータを見ると、既に各国・地域の3092選手が東京大会の出場枠を獲得し、全体の70%が確定した。当初は過去最多となる約170カ国・地域の参加目標を掲げたが、いくつか減るかもしれない。160カ国に満たない可能性もある。少なくとも130カ国は確実だろう。参加辞退を申し出たのは現時点では北朝鮮のみだ」

 ▽ワクチンは最良の切り札に

 ―大会関係者の削減はどれぐらい進んだか。

 「来日を予定していた大会関係者の約60%を削減する方針だ。感染対策の一環でぎりぎりまで絞り込み、IPCスタッフも25%減らす」

 ―米製薬大手ファイザー製の新型コロナワクチンが無償提供される。

 「ワクチンは障害者にとっても有効な感染対策になると思う。IPCは今回の発表前に、東京大会に参加する各国選手団の60%がワクチンを接種する見通しと試算していた。接種率はさらに上がるのは間違いない。各国選手団には義務化はしないが、できるだけ早く接種を求めたい。安全を高める最良の切り札だ」

東京都庁を訪れ、小池百合子知事(中央)と握手する国際パラリンピック委員会のパーソンズ会長。左は日本委員会の山脇康委員長=2019年12月

 ―発熱など副反応が出ることを懸念するパラ選手も少なくない。

 「世界保健機関(WHO)や専門家と連携し、注意喚起している。ごく低い確率で症状が出るケースもあると認識しているが、特に障害者にリスクがあるとのデータや研究結果の報告はない」

 ▽今こそ問われる共生社会の姿

 ―未曽有のコロナ禍で先行き不透明だが、どんな大会を希望するか。

 「パラリンピックは障害者の活躍にスポットライトを当てる、世界で唯一の国際イベントだ。パンデミックで健常者より障害者の死者が多い国もあると聞く。それでも障害者の存在を置き去りにしたり、忘れたりしてはいけない。今こそ、社会がいかに包括的であるか、共生社会の姿が問われている。障害者に活躍の機会を与えることが何より重要だと思う。もし東京でパラがなくなれば、リオ大会以降、24年パリ大会まで8年間も障害者の声が聞けなくなる。コロナ禍の困難な時代だからこそ、パラは世界を変革できる機会になると改めて呼び掛けたい」

  

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 アンドルー・パーソンズ氏 国際パラリンピック委員会(IPC)副会長、ブラジル・パラリンピック委員会会長を務め、南米初開催の2016年リオデジャネイロ大会を成功に導いた。17年9月のIPC総会でクレーブン氏(英国)の後を継いで第3代会長に就任。東京大会の準備状況を確認する国際オリンピック委員会(IOC)調整委員会の委員でもある。44歳。

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