【大学野球】監督も「変わりましたね」と認める成長 立大・太田、主将の重責が変えたもの

9回に逆転となる右越え適時2塁打を放った立大・太田英毅【写真:荒川祐史】

三振の多い粗い打撃が課題も今季は激減

東京六大学野球の春季リーグは第7週を迎え、22日の第1試合は立大が4-3で明大に競り勝った。優勝の可能性を残した両チームの戦いは、8回裏に逆転を許した立大が9回表に太田英毅外野手(4年)の一打で再逆転。この日7番に座った主将が優勝への望みを繋いだ。

立場が人を作るというが、太田はこの春文字通りの成長を見せている。智弁学園(奈良)では甲子園に3度出場。2年時に選抜優勝に貢献し、聖地で2本の本塁打を放つなど十分なキャリアと共に立大に入学した。

1年秋に神宮デビューを果たすと、2年春にはレギュラーを掴んだ。その矢先に左手有鉤骨を骨折し離脱を余儀なくされたが、怪我から復帰するとすぐにレギュラーに戻るなど、溝口智哉監督の期待の高さも伺えた。昨秋まで3季連続本塁打を放つなど長打力が持ち味だが、大きな課題もあった。それが三振数だ。2019年秋は11試合で15三振、2020年春は東大戦で5打席連続三振を喫するなど5試合で10三振。魅力的な長打力も三振数に影を潜めがちだった。

しかし、主将として初めて迎えた今春のリーグ戦。この日の試合前までの打率は2割ちょうど(30打数6安打)で数字だけ見ればもちろん物足りなさを感じなくもない。ただ、圧倒的に違っていたのは三振が8試合で4つしかないこと。指揮官も「(主将になって)変わりましたね」と認めるように、4月24日の早大戦ではヘッドスライディングで内野安打をもぎとるなど“0か100か”のバッティングは太田から消えていた。

前週慶大に2連敗を喫し可能性は低くなったものの、まだ優勝の可能性を残して迎えた明大戦。立大は今リーグ戦で首位打者を争う活躍を見せ、この試合で4番に座った東怜央内野手(4年)の適時打で初回に先制。5回にも追加点をあげ、2-0で終盤に入った。しかし、優勝の可能性を残している明大は8回、主将の丸山和郁外野手(4年)の適時打など5安打を集中して3-2と逆転した。

右越え適時2塁打を放ちベンチの声援に応える立大・太田英毅【写真:荒川祐史】

明大との1回戦、1点を追う9回に逆転の2点二塁打を放つ

負ければ優勝がなくなる大一番。9回表、2死一、二塁で太田に打席が回ってきた。「丸山に打たれて同じキャプテンとして負けてられない」。カウント1-2からの4球目を叩き、右翼手の頭上を超える逆転の2点二塁打。優勝への望みを繋いだ一打は「とにかくボールに食らいつく」気持ちで向かっていった主将の執念だった。

試合後の取材は監督と指名選手1~2人。各大学の主将やエースは指名されやすいのだが、9試合目にして太田はこの春、初めて取材場所に姿を現した。「これまで勝負所で打てなくてみんなに我慢させていて、キャプテンとして1本出せていなかった。やっとチームの役に立ててほっとしました」と胸を撫で下ろした。

主将を務めるのは少年野球以来で、本格的なまとめ役は実質初めて。「その場その場で自分の役割を果たしたい」と、数字に残らなくてもチームの勝利のためにできることを模索した春だった。溝口監督は「今までなら打率2割からそのまま下がって終わっていたと思うんですけど、今は何かやってくれそうな感じがあるんで、だからあそこでも代打を出そうと思わなかったですね」と太田への信頼度の高さを明かしつつも「キャプテンとしてはまだまだです。優勝したら100点ですけど、採点は保留します!」と愛されキャラの主将に更なる奮起を促した。

大学進学後もリーグ開幕前には必ず母校の小坂将商監督に電話を入れ、帰省のたびに手土産を持ってグラウンドを訪ねる律儀な背番号10。今日が春のラストゲーム。勝利の先に、指揮官からの100点満点が見えてくる。(市川いずみ / Izumi Ichikawa)

市川いずみ(いちかわ・いずみ) 京都府出身のフリーアナウンサー、関西大学卒。元山口朝日放送アナウンサー時代には高校野球の実況も担当し、最優秀新人賞を受賞。NHKワースポ×MLBの土日キャスター。学生時代はソフトボールで全国大会出場の経歴を持つ。

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