幻の島・横島

 長崎市の伊王島大橋の中央付近から南東の方角を眺めると、手前に二つの小さな岩礁が見える。明治のほんの一時期、炭鉱で栄えた「横島」のなれの果てだ。その島は周辺に石炭が見つかったことで、近代化の荒波にのみ込まれていく▲香焼町郷土誌(1991年)などには、1894年に始まった炭鉱開発で埋め立て地が造成されたとある。周囲を石垣で囲み、わずか2.2ヘクタールの島に住宅や学校が建てられたらしい▲最盛期には約700人が暮らし、香焼村(当時)最大の集落だったと記されているが、詳細な資料は乏しく、今では横島の歴史を知る人も少なくなったという▲4年前、市香焼地域センターの倉庫から、1900年に撮影された横島の写真とネガが見つかった。煙突から煙が上がり、建物や石垣もはっきりと確認できる▲島を支えた炭鉱は「坑内湧水」「盤ぶくれ」に悩まされ、開発着手から8年後に閉山。無人に戻った島は土砂が流出し、地盤も次第に沈んだ。そして65年ごろ、現在の形に▲目線の向きを南西に変えると、高島と中ノ島の向こうに世界遺産の構成資産となった端島(軍艦島)が見える。開発、栄華、衰退と似たような歴史をたどりながら、その末路はあまりに違う。来年は横島炭鉱の閉山から120年。光を当てる機会はないか。(真)

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