コロナ禍の支えに「こども食券」 中学生以下に配布 諫早青年会議所

サオリが受け取った「こども食券」

 「おいしい」
 5月の週末、諫早市本町の飲食店トミーズ。テーブルの間隔を空け、新型コロナウイルス感染防止策が取られた店内で、小学6年生のハルト(11)=仮名=がうれしそうに夕食のハンバーガーセットを頬張っていた。コロナ禍でふさぎ込みがちだった息子の笑顔に、30代のシングルマザー、サオリ=同=が目を細める。
 この日、ハルトの飲食代として、サオリが店に渡したのは1枚の「こども食券」。諫早青年会議所(諫早JC)が5月、希望者へ無料配布を始めた。この食券を使えば、子どもが市内の協力飲食店で食事やテークアウトができる。

 きっかけは「子どもの貧困問題」だったが、多くの笑顔や地域交流につなげたいと、世帯の所得制限は設けず、市内全ての中学生以下の子どもを配布対象にした。「地域全体で子どもを支え育てる」ことを理念に掲げ、市民や企業からの寄付金などを原資に、使用食券1枚につき500円を同JCが店側に払う。
 子どもへの食の支援を巡っては、貧困家庭や、親の帰宅が遅い家庭の子どもに無料か低額で食事を提供する「子ども食堂」などが全国で広がる。月に数回、決められた場所で提供する事例が少なくないが、こども食券は使いたいときに使いたい店で利用できるのも特長だ。
 今、この食券がコロナ禍での支援にもつながっている。「コロナでいろいろな学校行事や活動が制限されている。つらい時期を耐えている子どもたちに、何か楽しみを提供したかった」。トミーズ代表、陣野真理(しんり)(35)は、企画に参加した思いをそう明かす。

 ハルトが通う小学校も昨年から行事の中止や延期、規模縮小など影響が続く。友だちと思うように遊ぶこともできない。ある日、こう漏らした。「もう、学校に行きたくない」。コロナ禍が、子どもの心に暗い影を落とす。
 それはサオリも同じ。今、高齢者施設でパートとして働く。手取りは交通費込みで月約10万円。公的な児童扶養手当などを受給しているが、60代の実母への援助、家賃の支払いも必要で「生活はギリギリ」だ。
 実母のパート先はコロナ禍で利用客が激減。休業状態が1年以上続いた揚げ句に閉鎖し、今春、転職を余儀なくされた。「コロナで先が見えない。母も暮らしは楽ではない。母の仕事がなくなれば、その分、生活費を出さなければいけないが、私もどうなることか」。持病がある自分が体調を崩し、入院するようなことになったら-。コロナで在宅時間が長くなり、そんなことを、鬱々(うつうつ)と思い悩んでしまう。
 こども食券プロジェクトを知ったのは、そうした最中だった。協力店は和食や中華、焼き肉店、カフェなど18店(22日現在)。「ありがたい。経済的に助かるし、気分転換になる。子どもも、地域にこんな店があるんだと、食事が楽しみになる」
 40代のシングルマザー、メグミ=仮名=もコロナのあおりを受ける一人だ。資格を生かして2年前に独立・開業したが、高齢者を相手にすることが多い仕事。コロナ禍では思うように顧客開拓の営業活動ができず、手取りは少ない月で20万円に届かない。育ち盛りの中学生3人を抱え、家計は苦しい。
 受け取った食券。その恩恵は経済的なものだけではない、と感じる。「朝は6時前に起床し、就寝は夜12時。仕事と家事で毎日ヘトヘト。息つく間もないくらい。食券で時間の余裕が生まれるのがうれしい。ゆとりができることで、その分、子どもたちの話を聞いてあげられる」
 トミーズで、サオリと久しぶりの外食を楽しんだハルト。「大人になった時、コロナ禍での経験が自身の宝になる。今だからこそできることを自分なりに模索して、頑張って」。陣野真理の言葉に、ハルトは力強くうなずいた。
 サオリは言う。「隣近所で、お互いに『大丈夫ですか』って気遣い合うようになった。ちょっとしたことが楽しく、うれしい」。コロナ禍で感じる心遣い、優しさ。不安は拭えないが、それでも前向きに今を生きようと思っている。

=敬称略=

■協力店や寄付金募る

 諫早青年会議所(諫早JC)は10月末までの使用期間中(配布は9月末まで)、計1万食(500万円分)の提供を目指す。原資として、これまでに200万円を超える寄付金が集まった。同JCは「支援の輪が広がっている。子どもを地域で育てていくという意識が諫早の町全体に広がればうれしい」として、協力店や寄付金を募っている。


© 株式会社長崎新聞社