内藤重人 - 感性や行動力はいつまでもあると思わないから、今は作るべきとき

人間って社会的な状況に影響を受けやすい

──新作アルバムのレコーディングを開始したとのことですが、コロナ禍で影響はでませんでしたか?

内藤:順調に進めていきたいと思っています。制作のうえだけで言うと、僕は社会の状況や時期はあまり気にしていないかもしれない。10年くらい音楽活動を続けてきて、ひとりでもできることが増えてきたのでやりたいことがたくさんあって。でも、できることが増えたのは、去年の4月からライブ本数も少なくなってひとりで家にいて音楽に携わる時間が増えたからかもしれないですね。そういう意味ではコロナ禍での影響はあったのかも。

──2020年4月の緊急事態宣言は、誰もが初めてのことだったのでみんながピリピリしていたように思うんですけど、内藤さんはあまり雰囲気が変わらなかったですよね。5月2日には「少年の叫び2020に向けての物語」を配信、8月9日には「少年の叫び2020」をLOFT9で開催しましたが、迷いはなかったですか?

内藤:「自分はなにがなんでも絶対にやります!」っていうわけではなくて、お店の人、そして一緒に出てくれる人が「やりましょう」って言ってくれたら開催ができるんです。僕みたいに個人で活動をしていると、自分である程度判断できるのはいいなと思いますが、実は、去年より今のほうが迷っているかもしれないです(笑)。極端なことを言うと、自分自身はどうなってもいいんだけど自分じゃない人やまわりの人に感染をさせたくないっていう気持ちが大きくなりました。僕は大きな病気にもかかったことがないし、身近な人の死も経験がないから当時は危機感が欠如していたのかもしれない。B型っていうのもあるかもしれないけど。

──世界の全B型に失礼なことを(笑)。

内藤:いや、僕だけです(笑)。去年は自分のなかでディスカッションする必要もなかったんですよ。でも今は、呼んでもらえるなら行くけれど自分から遠征にも行きたいってアピールすることは減っていると思います。もともと、まわりの人がこう思うから自分もこう考えようっていうことがあまりないので気にはならなかったんですよ。でも、人間って社会的な状況に影響を受けやすいから、影響をすぐ受ける人とジワジワ遅れてやってくる人がいると思うんですよ。

──タイムラグ的なことですよね。

内藤:そうそう、僕はどっちかっていうと遅れてやってくる側なんですよ。出るはずだったライブハウスが休業するとかイベントが延期になるといった影響はあるけど、自分自身の精神的な影響はなかったですね。……去年は(笑)。たぶん僕は、悲しいとか元気がないとか自分自身のそういった感情と、音楽を作ったりライブをする感情は別のフェーズらしくて、ライブ本数が少なくなった時期も家のなかで音楽自体には触れていたんです。そうすると曲も増えるし、使える楽器や機材も増えていく。今の時代のために音楽を作りたいっていうわけじゃなくて、これまで音楽に関わってきた時間が脳みその器から溢れ出てくるっていう時期がやっときたのかなと思います。

──音楽もそうですし、映画や演劇も一旦制作や発表をストップさせる場合も多かったじゃないですか。でも1年以上もたっているのに同じ状況のままで、今作ってもリリースイベントができないなとかネガティブなことよりも作ることが重要だったんですね。

内藤:もし、自分のやっていることに関わる人間が多い人だったら迷うかもしれないけれど、基本的にはひとりで制作をしているので止めなくて良かったんです。むしろ、今は作るべきときだなと思いました。そうして作り続けてストックが増えてくると、こういう風に自分は変化してきたんだなとか、次はこういうことに挑戦したいんだなとか、全容やパッケージが見えてきたんです。見えたからにはやっぱりやりたくなるんですよね。それに、感性や行動力はいつまでもあると思わないから、生きていて元気なうちにがんばりたいんです。

──去年の4月から1年の間にわたしはだいぶ感性や感情が薄くなったんですけど、内藤さんはずっとモチベーションを保っているように見えます。

内藤:そういうケースはほんとうに多いと思いますよ。だから、消えてしまいそうな部分を補填してあげないと生きるのも厳しいよね。それは作る喜びでもいいだろうし、子どものころに好きだったことをするとかもでいいし。ただ、僕のモチベーションの維持は売れてないからっていうだけですよ。勝利をまだ得ていないし、いつも同じ世界にいるような気がするんです。ずっとこのままなのかなと思うと寒気がしてきちゃうから(笑)。

──進んでいきたい気持ちが糧になっているんですね。見に行く予定だったライブが中止になったりすることもあったと思いますが。

内藤:それは減ったよね。でも、予定が中止になって空いた時間を昼寝にあてるのはよくないと思って、意識的に作る時間にしていました。僕は、仕事も制作もほぼひとりだし、会うのも音楽のつながりの人が多いから、社会からの影響が他の人よりも少ないのかもしれない。

──そうやって見に行く現場が減ったりして感性に外的刺激が減っていくなかで、それでも楽曲を作り続けられたのは内藤さんの中にストックがたくさんあったからでしょうか。

内藤:確かにそうかも。インプットはもう十分にあるのかもしれない。そして、これまではアウトプットをおそろかにしてきたのかなと思います。もちろん新鮮なものも欲しいけど、追加し続けなくても今までためてきたものを音楽に書き換えていくことをする時期なのかな。そう思うと、イベントが減るのはさみしいし、友だちと気軽に遊べなくなったのもさみしいけれど、まだがんばれるかなと思います。時代の風みたいなものはどこかしらに入っているとは思うし、作品が感傷的になりがちだったり振り返る描写が増えているかもしれないけど、20歳当時の自分の振り返りかたとはまた違うはずだから、「2021年の作品」になるはず。

──たしかに内藤さんの歌詞にはわかりやすい流行語は入っていませんが、そのときそのときの時代の心情風景を感じます。インプットは随時メモをする派ですか、それともイメージをずっと体にためていられる派ですか?

内藤:たくさんメモをします。メモっていっても、こんなことを考えてたなというヒントになるだけで実際にそのまま使えたことはないけれど。歌詞も、「さあ、書くぞ!」って机に向かって書くのではなくて、たまってきたものをあるべき場所に置いて行く感じかな。

自分が今19歳だったら音楽をやめてた

──2020年9月に「ライブハウスから」というMVを発表されましたけど、各地のライブハウスの名前や描写がたくさん歌詞に出てきますよね。映像としてもライブ関連の画像で構成されていて。「このライブハウスはこうだったな」とか、「ライブを見に行く日ってこうだったな」とか、いろんな感情が思い起こさせました。もとから演奏されていた曲ですが、MV公開の時期は狙ったんですか?

内藤:あれはね、純粋に今、MVにするべき曲だなと思って。新潟のライブハウス店長からもコメントをもらったり、いろんな土地の人に聴いてもらうことができました。昔はピアノしか弾いてなかったけれど、今はむしろピアノ弾き語り要素ではないところに興味があります。もちろんピアノも弾くけど、実際に足元の機材も荷物も増えたし。この曲もそうだけど、使える機材が増えることで、できることや鳴らせる音が増えたんだと思う。

──向き合う時間が増えてできることが増えたっていうのは、コロナ禍がもたらした唯一……かもしれない良いことかもしれないです。

内藤:そうですね。音楽と向かい合う時間が格段に増えたから、ピアノを弾くだけだと物足りなくなったんだと思う。こういう音を出してみたいなっていう気持ちが増えて、高校生のときの情熱みたいなものが芽生えて、音が歪むエフェクターを買ってみるところから始まったんです。去年の5月はループとディレイしか使ってなかったけれど、今はたくさん増えちゃって。曲を作ってライブができればそれでよかったんだけど、今はライブをやるだけでは足りない。

──それってまさにフィジカルを作ることに向いていますよね。そう考えるとレコーディングを開始したのも自然なことに思えました。

内藤:音を作ることに喜びをすごく感じています。今まではきっと違ったんだと思う。ライブは好きだけどそれだけではやりたいことが補えなくなったから、音を重ねてレコーディングをする方向に進んでみることで自分の世界が変われることもあるんじゃないかなと。今の自分がいちばん向いていることなんでしょうね。

──そう思えなかった人も多いはずなので、そこは強みですよね。精神的にもきつくなって活動をやめちゃう人とか、閉店せざるを得ないお店とか。悲しい場面も目の当たりにしてきた1年でしたし。

内藤:活動の向かい合い方は人それぞれだけど、もし自分が今19歳だったら音楽をやめてたと思う。だって、今の状況ってつらいもん。告知もしにくいし、ライブハウスも行きにくいし。家族が同居していたりしたら、「ライブハウスに行くの?」って言われたりしちゃうだろうし。だけど、僕はもう10年以上そこにいてしまったから撤退することがなかっただけで。

──続けてきてしまったし、今やめるわけにはいかない、と。

内藤:そう。自分がこれまでやってきたことを、ちゃんとゴールまで連れていってあげないといけない。他に選択肢がないからっていうのもあるけど(笑)。でもさ、たとえば学校や会社とか団体に所属していたら、今の状況に抵抗するような音楽を作っちゃいそうだよね。自分はあまりそういう影響を受けなかっただけかもしれないです。

希望はいつもそこに当たり前にあるわけじゃなく、なんとか捻り出すもの

──「ライブハウスから」もそうですけど、歌詞の言葉数が増えたなという印象があったんですよ。だけど、そのあとに聴かせてもらった次回作に入る予定の曲には、数行しか言葉がない楽曲があったり、多いか少ないか極端に振り切ったなと感じました。

内藤:確かにそうですね!なんでだろう……リズムを重視するようになったのかな。

──ポエトリーに近いくらい言葉が強調されている楽曲は、風景や心情のすべてを描写したいからですか。

内藤:そうだと思う。鮮明なものが好きだから細部まで取り込みたいんです。でも、言葉が少ない楽曲は制作しながら、「これでいいのかな」って不安になる(笑)。

──書いている側としてはちゃんと伝わるかなって心配になりますよね(笑)。でも内藤さんの言葉選びって、極限まで減らしても鮮明なままだと思います。不安になったときはどうやって書き終わるんですか?

内藤:そこはがんばって信じてる、伝わるはずだって(笑)。あとは、言葉が少ない曲は、歌詞よりも楽曲自体に重きを置いているんだと思う。言葉で伝えることができるように鍵盤でも伝えることができるようになりたくて。風景を手元の演奏でも伝えたい。そういう曲って、言葉が多いと野暮になっちゃうから。

──「ナイトサファリ」は言葉が少ないですよね。変拍子だし曲調も変化するし、この曲はどうやって作ったんだろうって気になっていました。あれは曲が先ですか?

内藤:そうです、あれは大変でした、めっちゃがんばりました。音符に隙間なく言葉をしきつめたら台なしにしちゃうんじゃないかなと思って、言葉も減らしました。むしろ最近は、自分が歌わなくてもいいんじゃないかなとも思います。制作という意味では、やっとそこまでこれたのかもしれない。だって、自分で歌っちゃうと自分色が出過ぎちゃうから。だからいっそ人に歌ってもらうのもいいかなと思い始めていて。19歳のころは言いたいことがあった気がするけれど、いまは言いたいことだけじゃないんだよね。歌うことよりも、とにかく楽曲を作りたい気持ちなんですよ。

──その変化はきっと大きいですよね。とにかく良い楽曲を制作したいっていう気持ちの比重が大きくなったことと、19歳だったら活動をやめていたかもしれないけど今はやめる選択肢がないっていうのはつながっているんだなと思いました。

内藤:そうだと思う、今やっと音楽を好きになれているのかな。あと2ヶ月で制作が終わりそうなので、秋には発表できるかなと思います。秋くらいにはツアーも行ける状況になっていてほしいよね……。

──変化の作品、とても楽しみです! 最後に、6月5日(土)のLOFT9「音に撃たるるばVol.20」にむけてコメントをお願いします。

内藤:この日のイベントのこと、これから先のこと、今までのことを最近よく考えます。この日も開催させてもらえるなら、そして聴きに来てくれる人がいるなら、僕は諦めずに音楽を続けていきたいと思っています。希望なんていつもそこに当たり前にあったわけじゃなくて、なんとか捻りだして、「今の時代はいいものなんだ」って思ってきました。だから今も言います。音の鳴る場所で会いましょう。

© 有限会社ルーフトップ