【東京五輪】組織委・河野一郎副会長を直撃 反対世論にも前向き「状況によって国民の声は変わる」

組織委の河野副会長(右)が本紙の直撃に答えた

東京五輪開幕まで2か月を切った。新型コロナウイルス禍は終息が見えず、米国は25日に日本に対する渡航警戒レベルを最も厳しい「渡航中止・退避勧告」(レベル4)に引き上げ、さらなる波紋が広がる。先日には国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長(67)やジョン・コーツ副会長(71)の発言に批判が集まるなど、国民の間では中止を求める声が後を絶たない。今の状況を大会組織委員会はどう受け止めているのか。河野一郎副会長(74)を本紙が直撃した。

――五輪開幕まで2か月を切った。新型コロナ感染拡大が収まらない現状をどう見ているか

河野副会長(以下、河野) あと2か月、時がたつのは早いですね。現状はそれぞれの立場の人が困ってますよ。ただ、五輪の歴史から見ると「感染症」はある意味話題になってきた。

――1920年のアントワープ大会(ベルギー)ではスペイン風邪が世界中で流行した

河野 スペイン風邪の話は遠すぎるんだけど、2010年バンクーバー五輪の前には新型インフルエンザが大流行した。当時、日本選手団は橋本聖子団長(現組織委会長=56)だから、幸か不幸か2度のパンデミックとお付き合いしていることになる。このように歴史の中では必ず起こることなので頭にはあった。しかし、ここまでひどくなるとは想定できなかった。

――IOCがファイザー社製のワクチンを確保。日本選手団も6月以降に接種ができそうだ

河野 バンクーバー五輪を思い出して、あのときとは状況が違うけど、今回もある時期が来れば治療薬、ワクチンがハイライトされるだろうなと思っていたらその通りになった。選手は「自分の身は自分で守る」ことを第一に考えてはどうか。接種しないという選択肢も当然あるが、できるものならしたいと思う選手が多いのでは。バンクーバー五輪前はほとんどの選手が打ちたいと言っていた。

――国内ではようやく65歳以上の接種が始まった段階で、選手の〝特別扱い〟に疑問を持つ意見が出ている

河野 「なぜ特別扱いするのか」など、いろんな意見はあって当然。そういう意見がなければ、日本は多様性を否定することになる。ただ、我々も反対意見を認識しているけど、それと人格を否定することはまた別の話。それぞれの人格を認めながらいかないと、こういう民主主義の世界では話がなかなか進まない。

――組織委は日本看護協会に看護師500人のボラティア派遣を要請。すると、批判の声が寄せられた

河野 現場、コロナ病棟など医療現場に立っている人にとって、五輪どころではないというのは当然のこと。ただし、それは先ほど言ったように多様性の観点から、例えば組織委員会に関わっているドクターが協力を拒否するのは考えにくい。看護師に関しては、神経を逆なでするようなことを…と思われるかもしれないが、あくまでお願いするということ。「おい、頼むぞ」という形ではない。そこを全否定されるのはちょっと厳しい。

――「開催反対」は国内世論だけでなく、海外メディアにも広がる

河野 欧米、ヨーロッパ系の英語記事を読むと、そんなに「やめろ」というものは載っていない。ある選手が代表に内定したとか、ある選手は心配しているとかあるが、大部分は参加選手の記事が多いように思う。米国は五輪がメジャーじゃないので、今は(大リーグ・エンゼルスの)大谷翔平のほうが多い。五輪にフォーカスしたメディアに限れば、ネガティブな意見が出やすいのだろう。元都知事の石原(慎太郎)さんが16年五輪に続いて20年五輪の招致をしようとしたとき約8割が反対して、約2割が賛成だった。そういうことが忘れられているように、状況によって国民の声は変わってくる。

――コーツ副会長は緊急事態宣言下ので開催を明言した。河野副会長の見解は

河野 想定外のことを考えていても、我々としては前向きな仕事にならない。ただ、最終的にどうするかは契約の当事者である東京都や関係組織との間で決まってくる。開催を前提としても、今の状況が明日変わることもあるから状況の変化をとらえながらやっていくということ。

☆こうの・いちろう=1946年11月6日生まれ。東京都出身。東京医科歯科大でラグビー選手として活躍。筑波大内科講師、助教授を経て99年スポーツ医学教授に就任。医学博士。88年ソウル五輪から2008年北京五輪まで日本選手団の本部ドクター、本部役員などを歴任。日本アンチドーピング機構会長、日本スポーツ振興センター理事長、20年東京五輪・パラリンピック招致委員会理事、日本ラグビー協会理事、19年ラグビーW杯組織委員会事務総長代行などを務めた。

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