「広島訪問」から5年

 早朝、受賞が決まったことを知らせる電話を受けて〈どうして?〉と思ったと、オバマ元米大統領は回顧録「約束の地」(集英社)で振り返っている。2009年に受けたノーベル平和賞は、思いがけない贈り物だったらしい▲その頃、大統領になって1年にも満たなかった。過去の受賞者と同列にされる資格が自分にあるとは思えず、受賞を〈行動しろという呼びかけ〉と受け止めた、と述懐している▲オバマ氏が現職の米大統領として初めて広島を訪ねてから、27日で5年たった。「核なき世界」の実現に向けて詳しいことは語られなかったが、それでも被爆者と抱き合うあの場面は今もありありと目に浮かぶ。オバマ氏が「行動」で示した、歴史的な1日だったろう▲それから世界は変わったか。今のバイデン米大統領は、再び「核なき世界」を追い求めると宣言した。今年初め、核兵器禁止条約が発効、つまり国際的に効力を持つようになった▲一筋の光明が差したようにも思えるが、禁止条約を結ぶ国々による会議は、コロナ禍で延期の見通しという。これに限らず、核を巡る話し合いの場はいずれも滞っている▲議論が足踏みするうちに機運もしぼむようでは元も子もない。「核なき世界」という理想は美しく語るためではなく、かなえるためにあるのを忘れまい。(徹)

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