「林源十郎(はやしげんじゅうろう)商店 生活デザインマーケット」は、生活雑貨店・デニムショップ・飲食店などが入居する商業施設です。
おしゃれな人や、感度の高い人が集う人気スポット。
暮らしを彩る上質な商品に出会えます。
林源十郎商店は、センスの良いお店が集まり買いものと飲食を楽しめるだけではありません。
中庭には緑があふれ、展望テラスからの眺めもよく、倉敷の歴史を感じられる、居心地の良い空間です。
筆者にとってお気に入りが見つけやすいお店で、設立当初からよく足を運んでいます。
地域のものづくりを伝える、林源十郎商店を紹介しましょう。
撮影禁止の店舗もあります。
本記事は特別に撮影許可をいただいています。
林源十郎商店の概要
林源十郎商店は、倉敷の豊かな衣食住を提案するスペースです。
倉敷美観地区内にあった旧薬屋を改装し、2012年3月にオープンしました。
1934年(昭和9年)に建てられた建物は、どこか落ち着く雰囲気。
建築当時、倉敷では木造3階建ての建物はとても珍しく、倉敷のランドマークのひとつになっていたそうです。
2022年4月現在、以下の店舗が入居しています。
林源十郎商店の成り立ちと思い
林源十郎商店は、一般的なショッピングモールとは成り立ちが異なります。
「江戸時代から薬屋としての歴史を持ち、ランドマークでもあった建物を、まちづくりに活用したい」
そんな願いのもと、倉敷で地域活性に取り組む辻信行(つじ のぶゆき)さんに話が持ちかけられたのです。
歴史を活かしながら、倉敷のものづくりに出会え、ゆとりある豊かな暮らしを問いかける場所に生まれ変わりました。
公募でテナントを募るのではなく、辻さんが「豊かな暮らし」を提供するのに適切だと選んだお店が入っています。
テナントがほとんど入れ替わらないのも、特徴のひとつ。
長期的に林源十郎商店にお店を構えることで、良いお店や商品を多くの人に知ってもらうことを目的としています。
一緒に倉敷から豊かな暮らしを発信していこう。そんな志をともにできるお店の集合体といえるかもしれません。
林源十郎商店をまわろう
店内の一部を紹介しましょう。
shop 三宅商店
2階の雑貨店「shop 三宅商店」は、生活雑貨を中心に、衣食住にかかわるアイテムがそろうお店です。
倉敷市内・岡山県内のアイテムを中心に暮らしを豊かにする長く使い続けたい商品がそろっています。
児島のデニムブランドの服や、竹でできたTEORIのボウル、本染めのコースター、マスキングテープなど、たくさんのアイテムが見やすく並んでいます。
地元フルーツを使った三宅商店カフェ工房のジャムやフルーツジャムソースは、色もパッケージもかわいくてお土産にぴったり。
「倉敷祝儀袋」と名付けられた春色のご祝儀袋は、備中和紙と、2015年まで倉敷美観地区で祝儀店を営んでいたかたが結う水引を組み合わせた、林源十郎商店デザインプロデュース商品です。
長く愛されてきた素材や技術の新しいコラボレーションに、わくわくします!
倉敷散歩が楽しくなりそうな、探検セットもありました。
アチブランチ
倉敷意匠計画室は、全国各地の作家や職人とコラボレーションしている生活雑貨メーカーです。
「倉敷意匠計画室」を中心としたセレクトショップが「アチブランチ」。
手触りや手仕事の良さを感じられる商品がそろっています。
筆者にとっては、学生のころからずっと憧れのブランドです。
愛着のわくもの、くすっと笑えるもの、ちょっとした手土産など、大人心をくすぐるものが見つかるのではないでしょうか。
展望テラス
展望テラスからは、倉敷美観地区を見渡せます。
白壁の建物が立ち並ぶ町なみを、上から眺めてみてください。
大原美術館や有隣荘も見えました。
中庭
中庭にはさまざまな品種の植物が植えられていて、歩くだけでも楽しめます。
庭を眺めながら、Cafe Gewaでエスプレッソ珈琲を飲むのもいいですし、pizzeria CONO forestaでナポリから取り寄せた窯で焼くピザとワインを木漏れ日の中でたしなむのも最高!
薬草園もあります。
中庭の植物には札が掲示されているので、じっくり見てみてくださいね。
「よく飲む漢方薬に入っている植物は、こんな形だったのか」なんて発見があるかもしれません。
内装
3階にある独特の照明やテーブルや椅子は、古道具屋「womb brocante(ウーム ブロカント)」に依頼して作ったものです。
鍋や鳥籠、ポラロイドカメラにお弁当箱まで、思いがけないものが照明に変身しています。
テーブルや椅子も、学校で使われていたものを活用したそうです。
使い込まれた味わいが魅力的で、物を長く使う暮らしっていいな、と感じました。
林源十郎商店記念室
林源十郎商店記念室では、薬屋・林源十郎商店の歴史と、2人の当主の歩みを展示しています。
地域に根ざして福祉を支えてきた、林源十郎商店の活動を知ることができるのです。
江戸時代から使われていたと思われる薬箪笥(くすりたんす)は、圧巻!
歴史を感じられるのではないでしょうか。
林源十郎商店でのイベント
アチブランチとshop 三宅商店では、各種イベントも開催されています。
過去には、以下のようなイベントがありました。
- 丸亀うちわ × 倉敷マスキングテープ うちわをつくろう!
- 林源十郎商店×倉敷グリーンファーム 苔玉と苔リウムのある暮らし
- パン屋が食べたいパン屋のパン
- 花のうつわ展
イベントが魅力的なことも、観光地にありながら、地元の人が何度も訪れたくなるお店である秘訣でしょう。
開催中・開催予定のイベントは、公式サイトをチェックしてください。
薬屋・林源十郎商店の歴史
薬屋・林源十郎商店の歴史を紹介します。
1657年(明暦3年)、倉敷で唯一の薬屋が誕生しました。
その後何度か名を変え、1892年(明治25年)「林源十郎商店」という屋号になります。
特に注目したいのが、明治後期から昭和初期にかけて十一代当主を務めた、林源十郎(はやし げんじゅうろう)。
薬屋をもりたてるかたわら、地域貢献にも熱心に取り組み、多大な功績を残しています。
熱心なキリスト教徒で、教会や幼稚園を設立し、貧しい人や弱い人を助けました。
日本で初めての孤児院を創設した石井十次(いしい じゅうじ)と出会い、交流を深めています。
さて、倉敷の経済・文化を大きく発展させた人物としてもっとも有名なのは、大原孫三郎(おおはら まごさぶろう)でしょう。
大原美術館の創立者であり、現在のクラボウ・クラレ・中国銀行・中国電力となる会社などの代表も務めた実業家です。
実は大原孫三郎は、学生時代は放蕩(ほうとう)生活を送っていて、現代の金額で約1億円もの借金をつくり、父親に謹慎処分を受けたといわれています。
大原孫三郎の転機となったのが、謹慎中に林源十郎が石井十次に引き合わせたこと。
大原孫三郎は、石井十次と林源十郎の社会貢献の精神にふれ、自身も地域貢献や社会福祉に力を入れるようになりました。
林源十郎も、大原孫三郎や石井十次の活動を支えながら、街の健康・福祉に尽力したのです。
この3人の誰かが欠けていれば、今の倉敷は現在とまったく違う街になっていたことでしょう。
薬屋の林源十郎商店は、1997年にオーク薬品と合併し、現在は株式会社エバルスとして、中国地方全域で医薬品・医療機器の卸売業を営んでいます。
林源十郎商店はどのような思いで成り立っているのでしょうか。
林源十郎商店を運営する株式会社暮らしき編集部・広報の難波美智子(なんば みちこ)さんに話を聞きました。
株式会社暮らしき編集部・広報の難波美智子さんインタビュー
インタビューは2021年5月の初回取材時に行った内容を掲載しています。
──林源十郎商店ができて、倉敷の人の流れが変わったと感じています。林源十郎商店で働いていて変化を感じますか?
難波(敬称略)──
昔の観光は「大型バスでやって来て倉敷美観地区だけ見て引き返す」ことが多かったのですが、今は「美観地区から本通りそして商店街へ向かう」人も増えました。
周遊の役に立っているのかなと思います。
また、周りに新しいお店も増えてきました。
──林源十郎商店を訪れるのはどんなかたが多いですか?
難波──
女性の家族連れ、女性同士などが多いですね。
コロナ禍前は中国・台湾からもたくさん来られていました。
半数は地元のかたでリピーターとしてや県外からのお友達を連れて来てくださいます。
──「生活デザインマーケット」と銘打っていますが、どのようなコンセプトなのでしょうか。
難波──
倉敷は美観地区のまちなみを守っていることもそうですが、特にこの本通り・本町通りは、暮らしを大切にしているかたが多いです。
街の人たちが、質のいいものを長く使って次の代に引き継いでいけるような暮らしをしているので、それを紹介できたら、というのが最初のコンセプトです。
shop 三宅商店では、開店当時、白夜の多い北欧は家での暮らしをとても大切にしていて倉敷と共通するものがあることに気づき、北欧と倉敷のものを置いていました。
現在は、コンセプトをわかりやすくするため、北欧の商品は厳選し倉敷・岡山県内の商品を中心に取り扱っています。
取り扱っているのは、倉敷のノッティングや備中和紙など、知っているようであまり広くは知られていないもの、だけどていねいな仕事をされていて質がよく残していかなくてはいけないと思っているものです。
みなさまに買っていただければ、作り手が増えたり職業として長く継続することができます。
少しでも未来に残していくお手伝いができたらいいなと思っています。
しつらえなども、できるだけ倉敷のものを使いたいと思い、カフェでTEORIのものを使ったり、テーブルなども倉敷FINTのものを使ったりしていて。
使うことで良さをわかっていただけたらと考えています。
──中に入っているお店に統一感がありますが、すべて辻さんが声をかけたお店なのでしょうか?
難波──
そうですね。
サイトでも「林源十郎商店」としてまとまって発信をしたり、全体がまとまるように周年イベントを開いたりしています。
お店は、頻繁に入ったり出たりするのではなく、長期的にみんなで作っていく形にしていて。
今まで単独でよいものづくりをされていたお店が、林源十郎商店に入店することでさまざまなお客様に知られて、お店のファンがもっと増えたらと思っています。
──さまざまなイベントを企画実施されていますが、イベントのこだわりを教えてください。
難波──
暮らしき編集部が主催しているイベントでは、倉敷にまつわる会社や、残していきたい、応援したいものを紹介しています。
地元の企業や職人、地元の素材でものづくりをしている福祉事業所など、もっと知ってほしいところを広めたいなと思っています。
──特に印象に残っているイベントはありますか?
難波──
お客さんと行く工場見学は、特に楽しかったです。
TEORI、石田製帽、倉敷帆布、テイメンという脱脂綿を作っている企業、デニム縫製工場などに行きました。
──難波さんお気に入りの景色はどこでしょう?
難波──
展望テラスでの、夏の夕暮れのビアガーデンは最高です。
展望テラスになっている場所は、薬局だったときには屋根で覆われていたんです。
屋根を取り払って、倉敷美観地区を見渡せるようにしました。
3階窓からの逆サイドの景色も、緑が見えて好きですね。
目線の高さで間近に山を見られるところはあまりないので。
──林源十郎商店に来られるかたに、伝えたいことはありますか?
難波──
ぜひ、全店舗ひととおりまわってもらいたいです。
3階からの景色も見ていただけたらと思います。
林源十郎商店でいいものに出会おう
長く愛せる商品や心地よい商品は生活を豊かにしてくれると、筆者は感じています。
そしてわたしたちの暮らしの豊かさには、誠実な「作り手」と「売り手」の存在が欠かせないのではないでしょうか。
林源十郎商店は、きっと熱量ある商品に出会えるお店。
ぜひお気に入りを見つけに、足を運んでみてください。
そして展望テラスから倉敷の街を眺めてのんびりしてもらえたら、うれしいです。