<社説>LGBT法案見送り 自民は差別に向き合え

 LGBTなど性的少数者への理解増進を図る法案を巡り、自民党は今国会提出を見送った。このため今国会での成立が困難となった。 自民党の見送り判断は、性的少数者の差別と向き合わず、人権意識が欠如していると言わざるを得ない。不当な境遇や人権侵害に直面する人々を救済するためにも、再考して法案を提出すべきだ。

 法案は国や地方自治体の努力義務として、性的少数者への国民の理解を増進する施策実施を定めている。与野党の実務者が「差別は許されない」との文言を追加する修正案で合意した。「性的指向による差別」を禁じる五輪憲章にも沿うものとして、五輪前の今国会成立を目指していた。

 しかし、自民党内の一部保守派が「差別の範囲が明確でない」と異論を強く唱え、「差別は許されない」の文言に反発が続出したほか「訴訟が乱発される」との声も上がった。

 今回の法案を巡り、自民党の簗和生(やなかずお)元国土交通政務官は「生物学上、種の保存に背く」という趣旨の発言をした。しかし、この考えは現在の生物学で否定されている。否定されている考えを振り回して、少数者を差別することは許されない。山谷えり子元拉致問題担当相は「ばかげたことがいろいろ起きている」と発言したが、性的少数者の苦しみに理解を示さず多様性を軽んじるものだ。

 二人の発言から透けて見えるのは、多数派の偏見が差別を生み出しているということだ。そのことに気付かない多数派によって、性的少数者が排除されている。

 国際レズビアン・ゲイ協会によると、20年末までに28カ国と台湾が同性婚を法制化した。一方、19年時点で同性による性行為は68カ国が法律で明確に禁じ、イランやスーダンなど6カ国は死刑を科す。

 オランダは2001年、世界で初めて同性婚を法的に認めた。オランダはナチス占領下で、同性愛者が収容所に送られ、殺された歴史がある。

 日本で性同一性障害特例法が2004年に施行されてから19年までに、出生時に割り当てられた性別と異なる性を生きるトランスジェンダーで、戸籍上の性別を変更した人は計9625人に上る。

 LGBT法案のきっかけの一つに、ゲイだと暴露された一橋大法科大学院の男子学生が自殺した事件がある。NPO法人レインボーハートプロジェクトokinawaの竹内清文さんも、親しいゲイの知人2人を自殺で亡くしたと明かしている。

 ことし3月、国が同性婚を認めないのは違憲との初判決が札幌地裁で示され、結婚がもたらす法的利益を一切与えていない現状を「不合理な差別」と結論付けた。

 全国の自治体で同性パートナーシップ制度が進み少数者への理解が広がりつつある中、自民はいつまで差別に目を背け続けるのか。今国会に法案の提出を求める。

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