「こんなところに人工知能」がんを見つけ、天気も的中、好きなおやつまで選んでくれる

最適解を提示するAI、その未来像とは

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AIを搭載した内視鏡カメラで大腸を検査する工藤進英医師=2020年12月、横浜市の昭和大学横浜市北部病院(同病院提供)

 人工知能(AI)は大量の情報を学習し、私たちに「最適解」を提示してくれる。がんの見落としを防ぎ、1時間後の天気を的中、あなたが好きなおやつも届けてくれる。最適な提案に囲まれるようになった私たちの生活は、今後どこに向かうのだろうか。(共同通信=沢野林太郎)

 ▽0・4秒で発見

 「ピピー、ピピー」。内視鏡が大腸の内側を映し出すと、突然大きな警告音が鳴った。画面には「腫瘍の確率89%」の表示。内視鏡カメラを患部に近づけ、約500倍まで拡大すると、血管や細胞の内部まで詳細に見える。AIは瞬時に「悪性の可能性68%」とはじき出した。かかった時間はわずか0・4秒だった。

 「これは手術が必要だな」。昭和大学横浜市北部病院の工藤進英消化器センター長は検査映像を見ながらつぶやいた。工藤氏は、内視鏡の大腸検査を国内外で約30万例もこなした「神の手」を持つと称される。

 日本人の大腸がんの死者数は部位別で2番目に多く、年間約5万人が亡くなっている。工藤氏は「検査では腫瘍を見分ける『目』が重要だ」と話す。盛り上がったポリープの部分は見つけるのが比較的容易だが、へこんだ部分にがんがある場合もある。

AI搭載の内視鏡カメラによる大腸の検査=2020年12月、横浜市の昭和大学横浜市北部病院(同病院提供)

 がんを見分ける目をAIに代替させようと、内視鏡シェアで世界トップのオリンパスと共同研究を進めてきた。ベテラン医師が診断した画像数十万枚をAIに解析させて、自動でがんを見つけ出す機器「エンドブレイン」を開発した。

 約95%の確率でがんを発見でき、国から医療機器として承認された。「AIの導入で検査の精度が向上し、発見が難しかったポリープの見落としは大きく減るだろう」

 将来的に初期段階のチェックをAIが行えば、作業量を減らすことができるが、AIはサポート役で最終的な診断は人間の医師が行う。工藤氏は「AIが経験が浅い若い医師の技術レベルの引き上げにつながってほしい」と期待を込めた。

 ▽天気予報、精度向上

 天気予報の分野でもビッグデータやAIの活用が進んでいる。予報の精度を向上させるため、全国の会員から集めた膨大な報告をAIで分析。天候に左右されやすい商品の売れ筋や、ダムに流入する水量も予測する。ゲリラ豪雨や大型台風の被害が相次ぐ中、「ウェザーテック」と呼ばれる技術が、さまざまな業界で利用されている。

全国の会員からウェザーニューズに投稿されたゲリラ豪雨の恐れがある雲の写真(同社提供)

 「曇ってきました」。2020年8月12日正午すぎ、埼玉県所沢市周辺から、真っ黒い雲の写真とともに現地の天気を知らせる投稿が相次いだ。約30分後、ゲリラ豪雨の注意報が出され、午後1時すぎに豪雨となった。

 気象情報会社「ウェザーニューズ」(千葉市)には、全国の会員からスマートフォンで毎日約18万通の報告が集まってくる。一人一人がセンサーとなって実際の天気をリアルタイムで把握。雲の写真をAIで分析し、予測が難しいゲリラ豪雨の予報に使っている。

 過去3年間の天気予報や降水分布図をAIに解析させ、高精度の雨雲レーダーも開発した。これまでは5キロ四方で3時間先までの予測だったが、250メートル四方で15時間先まで可能になった。担当者は「会員のデータとAIの組み合わせで90%以上の正答確率で予報ができる」と説明する。

AIが予測した売れ筋商品を従業員に説明するスーパー店長(左)=2020年9月、愛知県稲沢市

 日本気象協会(東京)は天気予報から売れ筋商品をAIで予測するサービスを提供する。

 「今日の『超売れどき』はカツオのたたきです。揚げ物は不調です」。同9月、愛知県稲沢市のスーパー「ヨシヅヤ」。タブレット端末を手にした店長が朝礼で、従業員に販売方針を伝えた。台風の進路が予想よりそれて、気温が31度まで上昇する予報になった。

 天気予報に加え、販売データや会員制交流サイト(SNS)の投稿内容も分析。600以上の商品の販売傾向を12週間先まで予測する。浜田斉店長は「データがあると説得力が増す。食品ロスも減った」と話した。

 ▽毎月届く

 AIが自分の好きなおやつを選んで毎月届けてくれる定額サービスも人気だ。個々人の興味や事情に合わせた商品やサービスを提供する「食の個別化」が進んでいる。

 「あなたにオススメのおやつはこれです」。100種類以上のお菓子の中からAIが提案したのはスポンジケーキや豆など8種類。東京都の飲食店従業員山口美佳さんの自宅には月に1度、おやつの詰め合わせが届く。「好きなものを自分の代わりに選んで買って来てくれる」と満足そうだ。

 好みのお菓子を送ってくれる「スナックミー」(東京)は女性を中心に1万人以上が利用。内容は毎回変わり、組み合わせは1千億通りに上る。

「スナックミー」が送ったお菓子を手に取る女性=2月、東京都中央区

 利用者は最初に18問の「おやつ診断」を受ける。好みだけでなく、食べる時間や場所、運動の回数など生活習慣に関する質問もある。AIが会員から集めた数百万のデータを解析し、届けるおやつを選び出す。

 利用者は満足度を4段階で評価し、次回のリクエストもできる。好きなおやつ以外も入っており、新しい自分の好みに気付かせてくれる。同社の服部慎太郎最高経営責任者(CEO)は「使えば使うほどパーソナライズ(個別化)されていきます」と話す。自宅でお酒を飲む人向けに好みのつまみを届ける「オツマミー」も提供している。

 ▽「最適解」とは

 近い将来、私たちは好むと好まざるに関わらず、AIに囲まれた生活を送ることになるだろう。「あなたへのオススメはこれです」。グーグルやアマゾン、フェイスブックが私たちに提示するこのフレーズは、AIが膨大なデータを基に推定した「あなた」をよく知っているという証しだ。

 AIのおかげで最適な商品に迷わずに早くたどり着けるようになった。それは人工授精の精子でも恋愛アプリでも仕事探しアプリでも病気でも何でも「最適解」を瞬時に手に入れられるということでもある。失恋を繰り返して理想のパートナーを見つけたり、自分で努力してスポーツがうまくなったり、怒られながら仕事を覚えたり、AIに頼ればそんな「無駄」は省けるかもしれない。だが、果たしてそれでいいのだろうか?

 2016年、AI搭載の囲碁ソフト「アルファ碁」が世界トップ棋士を初めて破った。AIはルールが決まっている限られた範囲で答えを迅速に出すことに優れている。しかし私たちが生きていく現実世界は、ルールが不明確で過去に経験したことがない想定外のことも起こり得る。そんなときに過去のデータを持っていないAIはきっと最適解を提示してくれない。われわれはAIの提案にすっかり慣れてしまっているかもしれないが、自分の最適解を考えるというトレーニングの場までをAIにゆだねてはいけない。

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「こんなところに人工知能」①

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「こんなところに人工知能」②

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