<南風>お父さん預かります 後編

 鹿児島から走り出した日本一周オートバイの旅は、福岡、広島、京都、東京の友人達との夕食での語らいを楽しみながら東北へと駆けて行った。福島県会津若松の居酒屋では隣りで会話した方にごちそうになり、旅人に対する温かいもてなしに感激した。そして青森からフェリーに乗り、とうとう北海道函館港に着いた。船を降り大地に両手を当て、ここまでこれたことに感謝した。走行距離は11日間で3300キロに達していた。
 札幌から旅の最終目的地、日本の最北端宗谷岬までは学生時代の友人と一緒だった。彼は僕の人生を変えたオートバイの魅力を教えてもらった人だ。札幌郊外にある彼の別荘は男の夢の様な場所。緑に囲まれた煉瓦造りの2階建て住宅内に作られたガレージには、ピカピカに磨かれたイギリス製のオープンカーと大陸横断仕様オートバイが収まっている。愛車を眺めながらの仲間との会話、車のメンテナンス、心ゆくまで夢中になれる居心地の良い空間、ツーリング中考えていた、お父さんが休日に訪ねて行きたくなる場所そのものだ。日本一周の復路は翌年以降にして彼のガレージに愛車を預けた。2週間かけて宗谷岬まで旅をしたが、帰りは千歳空港から那覇空港までわずか3時間半だった。
 1年かけて完成したダッズ・ガレージは連日、多種多様な趣味のお父さん達の憩いの場所として賑わった。米国のキャンピングトレーラー「エアーストリーム」を模したアルミニウムの外観、曲面ガラスで作ったショーウィンドーにはドイツ製の玩具、クルマ、バイクの雑貨が並んだ。ドアを開けて入ってくる人は皆、笑顔で嬉しそうだ。
 「お母さん、ここでお父さん預かってますよ」。こんな好奇心に溢れたお父さんの顔を家族にも見てもらいたいと心から思う。
(根間辰哉、空想「標本箱」作家)

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