栃木県日光市足尾町の中倉山(なかくらやま)(1530メートル)頂上近くにある1本のブナの保護活動が5日、森林再生に取り組むボランティア団体によって行われた。付近の松木渓谷では、足尾銅山の煙害などで約120年前に木々が消失したとされる。ブナは岩だらけの斜面が続く稜線(りょうせん)にそびえ立ち、過酷な煙害を生き抜いたその姿から、「孤高のブナ」と呼ばれている。
ブナは、高さ約12メートル、直径約50センチ。樹齢は120年以上と推定される。
保護活動を行った「森びとプロジェクト」(東京都北区)の清水卓(しみずすぐる)副代表(59)は「煙害の生き証人とも言えるブナを守り、後世に残すことで、自然の大切さを発信し続けたい」と話す。
松木渓谷には今も、煙害や山火事の影響で荒廃した山肌があらわになって残る。「孤高のブナ」がなぜ、生き抜くことができたのかは分かっていないという。
一方で、さまざまな団体の地道な植樹活動により、少しずつ森は回復しつつある。2004年に発足した同団体も、翌年から渓谷で植樹などの森づくりを行う。その一環としてブナの保護活動を17年から年2回、実施している。
今回は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、参加人数を大幅に減らして保護活動を行った。
県内外から参加した同団体のメンバーら13人は、午前8時に登山を開始。約2時間後、ブナが立つ場所に到着すると、土壌流失防止のために背負ってきた腐葉土を植生袋に詰め替え、木の根元に貼り付けるなど作業に従事した。
茨城県牛久市城中町、無職済賀正文(さいがまさふみ)さん(63)は「みんなの地道な活動がブナに元気を届けている。歴史を見守ってきた足尾のシンボルとして、今後も大切にしていきたい」と話した。
近年、孤高のブナの認知度は徐々に高まり、その姿を見に訪れるハイカーも増えているという。