【大学野球】執拗な内角攻めも指揮官は「1本出るかな」 Vへ躍動する慶大4番・正木の修正能力

先制2ランを放った慶大・正木智也【写真:中戸川知世】

34年ぶりの優勝に向け「自分が決めてやるという気持ちで」

苦しみ続けた主砲のバットが、34年ぶり優勝へ王手をかけた。夏の気配すら感じる12日の神宮球場。点を取り合うシーソーゲームの始まりを告げたのも、終止符を打ったのも、慶大の4番・正木智也内野手(4年)だった。全日本大学野球選手権・準決勝の上武大戦。ここまで5打数無安打のうっぷんを晴らすように、大一番で躍動した。

両チーム無得点で迎えた3回1死一塁で、内角の直球を振り抜いた。「1打席目に死球を受けていましたが、怖がらずに踏み込んで打つことができた」。自身にとって今大会初安打が、先制の2ランに。苦しんできた“原因”を克服する手応えのアーチでもあった。

警戒されるがゆえの、執拗な内角攻め。10日の準々決勝・関学大戦でも、プロ注目の左腕・黒原拓未投手(4年)から左足に死球を受けた。この試合でも初回に右足に死球。内角を強く意識させられることで、打撃全体の形を崩していた。

調子自体は悪くなかったが、ヒットが出ないだけに気持ちが逸る。準決勝を翌日に控えた11日。基本に立ち返り、頭が前屈みになってしまっていた部分を調整した。急がば回れ――。ようやく目覚めた4番の姿に、堀井哲也監督も「前日の練習で掴めたのかなという感じがあった。いつも打つと思って打席に立たせているんですが、3回のあの場面は1本出るかなと思いました」とうなずいた。

決勝点となる適時打を放った慶大・正木智也【写真:中戸川知世】

スカウトも予感していた「怖がらずに踏み込んで打てるか」

プロ野球各球団のスカウトも注目するドラフト候補。ここまで本来の姿を見せることはできなかったが、かといって評価が変わるほどの器でもない。準々決勝が行われた10日に視察したロッテの永野吉成プロ・アマスカウト部長も「これほど内角攻めを受けたことはないからか、意地になって打っている部分がある。内角攻めに怖がらずに踏み込んで打てるかどうか。1本出たら変わると思う」と見ていた。

その“予言”は、2日後に的中する。先制弾を打った勢いそのままに、同点で迎えた8回には、決勝の左適時打を放ってみせた。取っては取られての乱戦は、10-6で決着。翌13日の決勝で、初優勝を目指す福井工大と相まみえる。

正木にとっては、2年時に経験した明治神宮大会以来となる日本一をかけた舞台。「2年前は先輩に引っ張っていってもらうという形だったんですけど、今年は最上級生として、4番として、副キャプテンとして自分が決めてやるという気持ちでやっていきたい」と気を引き締める。

目指すは1987年以来の歓喜。「陸の王者」の中心に座る身として、果たすべき仕事はひとつしかない。(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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