【大学野球】「自分が勝ちたい」から、「選手が勝ちたい」へ 日本一慶大・堀井監督の指導

慶大・堀井哲也監督【写真:小林靖】

社会人監督就任で感じた挫折「自分が勝ちたいというだけじゃダメ」

70回の節目を迎えた全日本大学野球選手権大会は、福井工大に13-2と圧勝した慶大の日本一で幕を閉じた。三振で試合が終わると安堵の表情を浮かべた堀井哲也監督だが、大学日本一の監督になるまでには、挫折も味わい学んだ指導があった。

徐々に力を見せていった。準々決勝までは苦しい試合が続いたが、準決勝の上武大戦で10得点を挙げ逆転勝利。13日の決勝ではさらに上回る13得点で快勝。2019年に監督就任して以来、初めての全日本大学野球選手権で見事優勝を収めた。

「自分が勝ちたいというより、選手の勝ちたいという気持ちをサポートする」

それが堀井監督の指導法だ。三菱自動車岡崎でコーチ、監督、JR東日本でも監督を務め、数多くのプロ野球選手を輩出してきたが、最初から全てがうまくいっていたわけではない。試行錯誤を繰り返してきた。

「三菱自動車岡崎で初めて監督になった時、コーチの時より成績が悪くて、自分が勝ちたいだけじゃダメということがわかりました」。監督は選手が上手くなるため、勝つために存在する。あくまで主役は自分ではないということに気づいた。

社会人時代に日本一経験も、「手作りで一緒に作った優勝は感慨深い」

その思いがさらに強くなった出来事もある。三菱自動車岡崎が活動休止になり、仕事で会社に貢献しようとした時、JR東日本から監督として声がかかった。

「就任依頼が来たとき、自分の都合で野球をやるんじゃないと思いましたね。野球界に恩返ししなくてはならないと思うようになりました」。JR東日本の監督に就任すると、2011年には都市対抗野球大会優勝。慶大の監督の就任依頼された時も、「野球への貢献」の思いで引き受けた。

選手の勝ちをサポートするためには、選手自身が勝ちたいという気持ちを強く持つことが大切だ。堀井監督がその強い気持ちを感じたのは、昨秋の東京六大学野球リーグ戦の後だった。最終戦の早慶戦。優勝がかかった試合で9回に早大・蛭間に逆転2ランを打たれた。その翌日、主将の福井章吾捕手(3年)が、監督に負けた原因や今後のチーム作りを提案してきた。

「負けた翌日から次勝つことを考えていた。だから、今年はいけるのではないかという感じはしました」

予想通り、春季リーグ戦を勝ち抜くと、大学野球選手権では34年ぶりの日本一。JR東日本時代に都市対抗野球で優勝した時とは違う感触があった。

「社会人は会社のバックアップもあるが、大学生はそうではない。手作りで一緒に作った優勝というのは感慨深いものがある」

それでも、優勝はあくまで「通過点」だと話す。選手らをサポートし、大学野球を全うさせるのが監督の役目だ。慶大を34年ぶり優勝に導いた男は、もう次のステージを見据えていた。(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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