経験、変則、ユーティリティの精鋭24人 侍J稲葉監督が選手選考に込めた思い

侍ジャパン・稲葉篤紀監督【写真:荒川祐史】

ブルペンは「DeNA山崎にまとめてもらいたい」

野球日本代表「侍ジャパン」の稲葉篤紀監督は16日、都内で会見し東京五輪の内定メンバー24選手を発表した。選手たち1人1人にそれぞれ、期待されている役割がある。

稲葉監督は今回もあえてキャプテンを置かない。ただ、「国際経験豊富な田中(将大=楽天)投手と菅野(智之=巨人)投手に、投手陣を引っ張っていってもらいたい」、「勇人(巨人・坂本勇人内野手)とキク(広島・菊池涼介内野手)の二遊間でチーム引っ張っていってほしい」と明言。投手陣と野手陣に2人ずつリーダーを指名した格好だ。

さらにひとたび試合が始まれば、リリーフ陣はブルペンへ移動し、ベンチから離れた状況で出番を待つ。そこで指揮官が「国際舞台の経験が豊富な彼にリリーフ陣をまとめてもらいたい」と選出したのが、DeNA・山崎康晃投手である。

今回選手されたメンバーのうち、21歳の西武・平良海馬投手、広島のドラフト1位ルーキー・栗林良吏投手は、抑えとして抜群の成績を残しているが、いずれも侍ジャパンのトップチームに選出されるのは初めて。一方、山崎は昨季、防御率5.68の大不振に陥り、今季は開幕からDeNAの守護神の座を三嶋一輝投手に明け渡しセットアッパーに回っているが、2015年、19年に2度のプレミア12を経験している。ブルペンの精神的支柱として不可欠と判断されたようだ。

広島・曾澤翼捕手は今季、下半身のコンディション不良などでチーム59試合中34試合出場にとどまっているが、チーム60試合中59試合出場の阪神・梅野隆太郎捕手らを押しのけて選出された。稲葉監督は「(正捕手として優勝に貢献した)プレミア12での経験は大きい。それを生かして、今回選出された投手陣をリードしてもらいたい」と説明したが、曾澤は前日(15日)の試合中の守備で左足を痛め、この日抹消。一抹の不安を残した。

以上は、故障や新型コロナウイルス感染などで多少の出遅れやブランクはあっても、豊富な代表経験を買われた“経験枠”と言えそうだ。

阪神青柳に期待「シンカー系の球は初見では打ちにくい。先発、リリーフの両方で活躍を」

“変則枠”と呼びたくなるのが、代表初選出の阪神勢2人。青柳晃洋投手と岩崎優投手だ。横手投げの青柳は今季5勝2敗、リーグ2位の防御率2.17(16日現在)と好調。横手・下手投げは米国や中南米の打者に対して有効といわれ、過去にも2019年のプレミア12でソフトバンク・高橋礼投手、17年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)と15年のプレミア12では当時西武の牧田和久投手(現楽天)が選出されている。稲葉監督は「豪快に振ってくる外国人の打者にとって、青柳投手のシンカー系の球は初見では打ちにくい。先発、リリーフの両方で活躍を期待している」と語った。

岩崎についても、稲葉監督は「腕が少し遅れてくる独特の投げ方で、スピンの効いたボールは初見で対応するのは難しい。打者の右・左に関係なく1イニングを任せられる」と評した。

稲葉監督は世界一に輝いた2019年のプレミア12で、当時チームでは代走か守備固めでの出場が多かったソフトバンク・周東佑京内野手をサプライズ選出。主に代走として起用し、大会最多の4盗塁で貴重な戦力として機能させた。左腕のソフトバンク・嘉弥真新也投手は、対左打者用ワンポイントとして役割を果たした。しかし、規定でプレミア12より出場選手が4人減る東京五輪では、こうした“スペシャリスト枠”を選出する余裕がない。

その代わりに重要となるのが、1人で2役も3役もこなせる“ユーティリティ枠”の選手だ。外野手として選出されたソフトバンク・栗原陵矢は今季、右翼、左翼の他、三塁、一塁、さらには捕手でもプレーしている。そもそもソフトバンクでは今季も捕手登録である。選出された曾澤やソフトバンク・甲斐拓也捕手に不測の事態が起こった場合の“保険”としても貴重な存在だ。

打線の軸として期待される楽天・浅村栄斗内野手も、チームでは二塁手もしくはDHだが、東京五輪では一塁手としての出場が主になる。稲葉監督は「プレミア12でもファーストを守っていただいたし、『少し練習をしておいてください』と伝えてある」と明かした。

選手1人1人、期待される役割は異なる。経験豊富な選手や特殊技能を持つ選手たちが、怖いもの知らずの若手をフォローする形になれば、侍ジャパンは悲願の金メダルへぐっと近づく。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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