無人のドームで行われた始球式 「じいじの還暦を祝いたい」鷹が叶えた孫の夢

PayPayドームで始球式を行った東さん家族【写真:福谷佑介】

試合前の早朝のPayPayドームで行われた祖父と孫だけの始球式

誰もいない早朝のPayPayドームのグラウンド。そこでプロ野球選手を目指す孫とその祖父がひっそりと始球式を行った。孫の投げたボールを祖父が捕る。30分ほどのわずかな時間だったが、2人にとってはかけがえのない、濃密な時間となった。

12日に行われたヤクルトとの交流戦前のこと。孫の名前は東琥憂人(ひがし・くうと)くん、11歳。祖父は東政人(ひがし・まさと)さん。2人はソフトバンクの本拠地・福岡県に住み、この日がちょうど祖父の60歳の誕生日だった。

祖父の還暦を祝うために、孫が描いた始球式の夢。それを叶えたのが、ソフトバンクだった。九州を元気にするための「ファイト!九州」プロジェクト。その一環として、九州在住の子どもたちの夢をホークスが一緒になって実現する「あなたの夢を叶えます!」を企画し、夢を募った。

「じいじの還暦をお祝いできたら……」。応募を思いついたのは孫の琥憂人くん。いつも野球を教えてくれ、所属する少年野球チームのコーチも務めてくれている大好きな祖父が12日に60歳の誕生日を迎える。還暦を何か特別な形で祝いたいと考え、この企画に応募した。

始球式を行った東琥憂人くんと祖父の東政人さん【写真:福谷佑介】

栗原のサイン入りユニ、スタジアムDJのアナウンスなど球団はサプライズを用意

奇しくも「ファイト!九州デー」が予定されていたうちの1日である12日が政人さんの誕生日。応募を目にした球団担当者も「この企画にピッタリだと思いました」。数百を超える応募の中から選ばれた。届いた当選の連絡に、琥憂人くんは「すごくビックリしました」と驚きを隠せなかったという。

本来であれば、スタンドが観客で埋まる試合前に行われるはずだった。だが、新型コロナウイルスの感染拡大、そして、球団独自の措置で試合は無観客開催に。「ファイト!九州デー」自体は延期となったものの、選手やチーム関係者らと接触しないように、選手らが球場入りする前の早朝に始球式は決行された。

球団から用意された数々のサプライズ。まず、祖父がファンだという栗原陵矢捕手のサインが入った「ファイト!九州」ユニホームが贈られ、2人はこのユニホームを来て、憧れのPayPayドームのグラウンドに足を踏み入れた。投球前には、選手登場時と同じBGM、ビジョン演出で一塁ベンチからマウンドへ。スタジアムDJのツバサさんも駆けつけ、お馴染みのアナウンスで、2人の名前をコールした。

さながら選手たちのように、マウンドに立った琥憂人くん。投球の前には、政人さんに内緒で用意していたサプライズの手紙で日頃の感謝を伝える。4枚の便箋に認めた思いを読み上げ、政人さんのミット目掛けて思い切り腕を振った。「ちゃんとじいじのミットを目掛けて投げることができました」。会心の一球となった。

東琥憂人くんと祖父の東政人さん【写真:福谷佑介】

ソフトバンクが「ファイト!九州」の一環として行う「あなたの夢を叶えます!」プロジェクト

最後には栗原からサプライズのお祝いのビデオメッセージも。センターのホークスビジョンに映像が映し出されると、琥憂人くんも政人さんも驚きを隠せなかった。「夢にも見ないようなことで胸がいっぱいです。最高の誕生日、最高の還暦を迎えることができました」。琥憂人くんは夢を叶え、孫の思いを受け取った政人さんにとっては忘れられない1日となった。

ソフトバンクは、新型コロナウイルスの感染拡大により、閉塞感のある生活を強いられたり、明るい話題が少なくなった社会状況の中で、九州に根ざした球団として何をなすべきかを追求。熊本・大分地震の災害復興支援プロジェクトとして発足した「ファイト!九州」を、復興支援に限らず、様々な“ホークスが九州を元気にする活動”を行うものとして活動の幅を広げた。

その一環として企画された「あなたの夢を叶えます!」プロジェクトも、コロナ禍で不自由な暮らしを強いられている子どもたちのためにと、九州各地の子どもたちから夢を募って実現させようと始まった。前日11日のヤクルト戦では、福岡県に住む中学3年生・貞包梨沙さんが場内アナウンスを体験。「ウグイス嬢になる」という夢を実現させていた。

「あなたの夢を叶えます!」プロジェクトの募集は10月31日まで続いており、現在も子どもたちの「夢」を募集している。そして、今後も随時、その夢の実現を実施させていくという。この日、愛孫とのかけがえのない時間を過ごした政人さんはこう口にした。「こういう企画があると、子供たちの大きな夢にもなる。最高にいい企画だと思います」。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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