高級食パン戦国時代(1)「往復2時間半」の価値…人気の品で横浜に出店ラッシュ

「乃が美はなれ関内店」への入店を待つ客の列(右)。女性店員(左端)が1人ずつ案内する=横浜市中区

 かねての高級食パンブームが、足元で勢いを増している。専門店の出店攻勢により、朝の食卓を巡る競争は「戦国時代」の様相だ。

 横浜スタジアム(横浜市中区)近くの細い路地に、老若男女が1人、また1人と吸い寄せられていく。6月中旬の平日、午前11時前。仕事の合間に立ち寄ったという30代の男性を先頭に、わずか5分足らずで15人ほどの列ができた。

 「どうぞ、お進みください」

 女性店員の呼び掛けで、高級食パン専門店「乃が美はなれ関内店」の慌ただしい1日が始まった。1本(2斤)で864円の看板商品「魔法の『生』食パン」が、店内の陳列棚から次々と消えていく。開店から1時間が過ぎても、客の行列が途絶えることはない。

 「ここが一番、自宅から通いやすくてね」

 東京・八王子に住む男性(65)は月に1度、電車で往復2時間半をかけて店舗に足を運ぶ。「乃が美の味にはそれだけの価値がある。妻も私も大ファンです」。毎回お気に入りの食パン3本を購入し、焼かずにバターを塗って食すのが楽しみという。

 2018年にオープンした関内店は、1日で千本以上を売り切った日もある。県内の全4店舗をけん引する存在だ。

 高級食パン市場で最大手の乃が美は、大阪を拠点に全国47都道府県で220以上の専門店を持つ。このうち約3分の1は昨年以降に開業した。新型コロナウイルスの影響下にあって、むしろ攻勢を強めている。

 乃が美に引き寄せられるように、横浜中心部は近年、高級食パン専門店の出店ラッシュに沸く。とりわけ象徴的な動きが横浜・馬車道で起きていた。

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