【東京五輪】「思いつきで恐怖あおるな!」分科会・尾身会長の無観客提言を…同業者がバッサリ

一人の「被害者」も出さずに開催できるのか…

何がいったい正しいのか…。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長(72)ら専門家有志が18日に、東京五輪・パラリンピックに関する提言を西村康稔経済再生担当相(58)に提出した。感染リスクを考慮して無観客開催が望ましいとの立場などを強調したが、感染症に詳しい医療専門家はこれまでの分科会の対応をバッサリ。同業者からまさかの〝物言い〟が飛び出した格好で、コロナ禍で強行開催される東京五輪を取り巻く状況がさらに混沌としてきた。

尾身会長らによる提言は開催時の観客についても言及。「無観客開催は、会場内の感染拡大リスクが低いので、望ましいと考える」との立場を明確にした上で「(有観客の場合は)現行の大規模イベント開催基準よりも厳しい基準の採用、開催地の人に限ること、移動経路を含めて感染対策ができるような人々に限ること」などと求めた。

また感染拡大に伴う医療体制のひっ迫を懸念しており「たとえ開催中であっても、ちゅうちょせずに緊急事態宣言の発令等を取れるように準備し、タイミングを逃さずに実行していただきたい」。主催者サイドにも「本見解の内容を国際オリンピック委員会(IOC)にも伝えていただきたい」と要請した。

今回の提言は納得できるリスク軽減策の説明を望む〝国民目線〟の印象を受けるが、感染症に詳しい医療ガバナンス研究所理事長で内科医の上昌広氏(52)は、これまでの分科会の対応を「恐怖をあおっているだけですよ」と一蹴した。

まず、上氏が問題視したのは海外の事例をほとんど取り扱っていないこと。「今、危険になっているのは空気感染。これは英国医師会誌の社説でも書かれていて、世界の医学会のコンセンサスなんです。たとえば『ダイヤモンド・プリンセス号』で隣の部屋の人が感染した、大型バスで後方の席から運転手が感染したというのは濃厚接触者ではないんですよ。しかし、尾身さんはマイクロ飛沫や濃厚接触ばかりに偏っています。話になりませんよ」

さらに上氏はパブリックビューイング(PV)中止を求めていることにも首をかしげる。「空気感染とはいえ、屋外ではリスクはほぼゼロになります。1メートル程度距離を保って静かに観戦すれば問題ありません。ただし、屋内となれば話は別。屋内では(選手、関係者、観客)全員がその日の検査で陰性でなければ感染リスクが高まります。それが世界最先端の臨床研究なんですが(分科会は)そういったものを無視して、思いつきのモデル研究だけでやっているんです」と苦言を呈した。

それだけに、オリパラ開催の決め手となっている(外部との接触を遮断する)バブル方式の限界もこう指摘した。「感染の多くが空気感染。離れてもかかることが分かったんですね。そしたらバブル方式なんて意味がなく、できないんです。空気感染が起こるんだったら、ホテルのスタッフから出入りする業者から全員がワクチンを打たないといけません。空気感染が起こるならバブル方式は太刀打ちできないんです」

かねて上氏は「今のままでは世界中から『これでやっていいのか』という声が上るのは当然」と話しており、中止も選択肢に入れるべきとの立場。それだけに、開催するとしても「昨年同様、6月半ばから感染者が増えつつありますので、ピークは7、8月になると思うんです。熱中症の問題もありますので、開催を2か月程度延期すべきではないでしょうか」と改めて提言した。

信じていいはずの分科会の提言だったが、専門家からまさかのツッコミが入るとは…。「安心・安全」をお題目に強行開催路線が止まらない中、何が正しいのかわからなくなってきた。いったい、どんな結末が待っているのか…もはや誰も見通せない状況だ。

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