トミーテックから6月発売「ノスタルジック鉄道コレクション」、新シリーズ登場の背景やコンセプトの違いを聞いてきた!

画像提供:トミーテック

Nゲージサイズのモデルとして集めやすい価格とコンパクトさで好評の、トミーテックより展開されている「鉄道コレクション」シリーズ。別売の動力ユニットや各種交換パーツを組み込むことで、Nゲージ鉄道模型としても楽しむことができます。そのラインナップには、他社にはないコアな鉄道車両も多く、鉄コレならではの魅力に。

しかし、2月10日にトミーテックから発表された新製品情報の中には、「今までとは何かが違う」と思わせる名前が記されていました。その名は「ノスタルジック鉄道コレクション」、略して「ノス鉄」と呼ばれ、鉄道模型ファンの間に大きな話題を呼びました。

発売前からそれほどの話題を呼んだとあらば、ぜひともメーカーの声を聞いてみたい。そこで、東京・神田にあるトミーテックショールームにうかがい、「ノス鉄」企画のエピソードを取材してきました。

試作品やレイアウトが詰まったショールーム

本題に入る前に、今回おじゃましたトミーテックショールームを簡単にご紹介。東京・神田駅徒歩1分の場所にあり、エレベーターで7階に上がると待っているのは、ホビーの面白さが詰まった空間。「TOMIX」ブランド、「ジオコレ」ブランドそれぞれで、新発売・発売予定品の試作品を間近に見ることができます。

※TOMIX……1976年に誕生した国内鉄道模型のトップブランド
※ジオコレ……「ジオラマコレクション」のこと。鉄道、バス、自動車、建物や樹木など、1/150スケールを主としたコレクションシリーズの総称。

新発売・発売予定製品の試作品が数多く展示されるショールーム

さらに、ショールームに入って左奥にはNゲージの大型レイアウト体験コーナーもあり、新幹線や話題の列車が伸び伸びと走る姿も。取材時は、特急「踊り子」で活躍した185系や、今年中に引退予定のE4系「MAX」などが見られました。

大迫力の大型レイアウトも!
山岳エリアの反対は都市エリア、Nゲージの電車が伸び伸びと行き交う
取材日には185系「踊り子」が駅に停まっていた

50代以上をターゲットにしつつも、若い世代からも熱い反響

それではここからが本題、トミーテックの担当者に「ノス鉄」企画のエピソードについていろいろと聞いてみましょう。今回は、企画課長、企画担当者、広報担当者の3名に対応していただきました。

もともとの「鉄道コレクション」シリーズは2005年にブラインドパッケージの第1弾が登場し、現在は第30弾まで展開。ブラインドでない、通常の販売形態としても多数の車両が製品化され、とくに私鉄車両においては事業者限定品も数多く販売されました。地方のローカル鉄道に焦点を当てた商品展開も行われており、他社ではなかなか商品化されない、ユニークな車両がリーズナブルな価格で楽しめるのが魅力になっています。

しかし最近の「鉄コレ」ラインナップを見てみると、たとえば京成電鉄3100形やこどもの国線Y000系など、現役や新型の車両も多数製品化されていることが印象的です。もちろん、それはそれで「鉄コレ」でできることが拡大したと考えることができますが、「懐かしさ」には欠けてしまっている印象……。

最新型車両の京成3100形も鉄道コレクションで登場

その中で先日の、鉄道コレクションシリーズの原点回帰を銘打った「ノス鉄」シリーズの発表。この反響に関しては「とりあえず一安心」と企画担当者。メーカー側もネットなどの反応を確認しているそうですが、想定していたターゲット層(50代)ではない若い世代からの反応や、「キワ90タイプ」への反響が想定以上に大きかったようです。

※キワ90タイプ……1960年に製造され、宮崎県の国鉄妻線(現在は廃線)で活躍した気動貨車。鉄コレ化に際し一部実車と異なるためタイプモデルとなる。

「ノスタルジック鉄道コレクション」第1弾の未塗装サンプル

ちなみに「ノスタルジック鉄道コレクション」という新たなシリーズ名になった理由は、企画担当者によれば「分かりやすさを重視した」から。そうでなければ単純に「鉄道コレクション 第31弾」や「鉄道コレクション番外編」などの名称になっていたかもしれません。

「現存しない車両」という点では今までと同じ

ブランド名にもあるように「ノスタルジック」という点では、「ノス鉄」第1弾のラインナップはどれも現存しない車両や、富井電鉄という架空の設定が使用されているのも気になるところ。既存の鉄コレシリーズとはどんな違いがあるのでしょうか。

※富井電鉄……トミーテックが展開する架空の鉄道会社のこと。1067mm軌間を想定した富井電鉄本線・港線・犬山線と762mm軌間(ナローゲージ)を想定した猫屋線・市内線を有し、前者は1/150スケールで、後者は1/80スケールの9mmゲージで模型化している。

実は、鉄コレ第30弾と比較した話ですが、コンセプトは「現存しない車両」という点で共通していました。鉄コレ第30弾のラインナップ車両は、会津鉄道キハ8500系、小田急電鉄キハ5100形、伊豆急行100系、名古屋鉄道7700系、近畿日本鉄道18200系の5車種でしたが、線路上で見ることができるのは伊豆急行のクモハ103号のみです。

発売中の鉄道コレクション第30弾(左から伊豆急・会津鉄道・近鉄・名鉄・小田急)

「ノス鉄」第1弾のラインナップに選ばれた車両を見ても、国鉄EB10形とキワ90タイプ以外は実物が存在せず、富井電鉄・富井化学工業と名の付く車両はそもそも架空設定のため実在しません。どちらも現存しない車両を製品化するという点で、「鉄コレ」と「ノス鉄」のコンセプトは共通していたようです。

左:国鉄EB10形、右:富井電鉄DB20型
国鉄キワ90タイプ
左:富井電鉄ハフ形客車、右:富井電鉄ハ形客車

「世に出てない立体物を作ろう」と始まった「鉄コレ」が「富井電鉄」に

前述の通り、「鉄道コレクション」の展開が始まったのは2005年。当初は「立体物として世に出ていないものを作ろう」という方針で、製品化されてきた車両は昭和時代の懐かしい車両が中心。企画課長いわく、当時はNゲージサイズのローカル鉄道や小型車両が今ほど普及しておらず、かといって金属製の組み立てキットでは敷居が高い。そこで、プラスチック成型の完成品として、マイナーな車両に焦点が当てられたのこと。鉄コレ第1弾の車両には、名古屋鉄道デキ101・デキ104、いわゆる凸型機関車が収録されていました。鉄道ファンでなければそうそう聞くことのない車両だったかと思います。

また、当時からフリースタイルの電車も製品化されていましたが、その時はまだ「富井電鉄」の名は出ていませんでした。コンテンツの発展にともなって「鉄道コレクション」としても現代の車両を製品化したり、1編成の車両数が増えたりするようになりましたが、メーカーとしてもクラシック路線に戻りにくい風潮があったとのこと。そこで2016年の「凸型電気機関車」を皮切りに、「富井電鉄」の名が前に出るようになったのです。

さらにバックボーンがあった方が分かりやすいということで、本格的な路線図も一緒に考案されたそうです。Nゲージサイズの本線・港線・犬山線と、1/80ナロー(車両は80分の1スケールで、線路幅はNゲージと共通)の猫屋線・市内線が登場しています。

富井電鉄路線案内図。実在しないとはいえ本格的(画像提供:トミーテック)
左がNゲージサイズ、右がHOナロー。線路幅は同じでも大きさが違う
小林信夫氏による、富井電鉄「ノス鉄」イメージイラスト
富井電鉄猫屋線のイメージイラスト

ちなみに、過去に富井電鉄として発売された製品の中には、それ以前に発売された製品がベースになっているものもあります。たとえば2017年に発売された「17m級大型電車A・B」は、鉄道コレクション第6弾で登場した車両がベース。色こそ違いますが、車体は岳南電車モハ1103号や松本電気鉄道(アルピコ交通)モハ103号などに共通します。

富井電鉄・17m級大型電車。設定は架空だが、車体は鉄コレ第6弾がベース

また「凸形電気機関車 貨物列車セットB」の機関車も、色は当時と異なりますが車体は鉄コレ第1弾の名古屋鉄道デキ101・デキ104機関車がモチーフ。その点では、富井電鉄シリーズは実在した車両をベースに、架空の設定を与えたフリースタイルで楽しめると考えることもできますね。

「ノス鉄」はコロナ禍だからこそ生まれた

ここで改めて「ノス鉄」第1弾のラインナップ車両を見てみましょう。全て車輪が2つしかない2軸の車両です。これも現代の車両ではほぼ見られない特徴になっていますが、なぜあえて2軸の車両を選んだのか。企画担当者によると3つの理由があるといいます。

車輪が2つしかなく非常に短い2軸車両。

1つ目は省スペースでも遊べること。新型コロナウイルスの影響で在宅の機会が増えている家庭が多くなっており、自宅で鉄道模型に触れることができる機会も増えています。しかし、特に子どもがいる家庭では、なかなか部屋中に線路を広げて長編成を走らせることは難しいもの。だからこそ、省スペースで展開できる「ミニカーブレール」を活用して、気軽に遊べるように開発したとのこと。

2つ目は猫屋線シリーズで人気のダブルルーフ客車やオープンデッキ客車を、Nゲージでも開発したいとの思いがあったこと。1/80ナローのスケールで人気があるということは、Nゲージサイズになればより多くの人に気軽に手に取ってもらえることにもつながりますね。しかも車体は小型なので、ミニカーブレールでも難なく遊べます。

3つ目はトミーテックだけでもできる取り組みを優先したこと。コロナ禍の影響で、製品監修のやり取りをする鉄道会社の担当者が、テレワークのため出社していないことも。そうなると鉄道会社と連携が取りにくくなってしまうため、トミーテックが単独でできることに注力するという流れになりました。その上で、かねてよりリクエストのあった「古い車両」という要素を取り入れた結果が「ノス鉄」です。

2軸車両動力ユニット「TM-TR07」を組み込めば、省スペースでも走らせて遊べる

まとめると、「ノス鉄」第1弾に2軸車両が選ばれた理由としては、増えた在宅時間を活かして省スペースで遊べる、猫屋線シリーズの経験をNゲージにも活かす、コロナ禍での制約の中でもできることに注力する、この3点になります。「ノス鉄」はコロナ禍だからこそ生まれたと考えることもできるでしょう。

「ノス鉄」発売後は、通常の「鉄道コレクション」シリーズと「ノスタルジック鉄道コレクション」とで製品展開にも変化が起こるかもしれません。また、今までのようにイベント会場で鉄道会社の事業者限定品が販売される機会も減ってしまったことで、鉄道コレクションとしても今は時代の変わり目にあるところでしょう。

それでも、比較的安価で手に取りやすく、たまにマニアックな車両が登場するということで、鉄コレのブランドは確立されてきました。その上で、企画課長からは「鉄コレは形を変えて自由なところに入っていくという緩い感じになっている。時代に応じて形を変えていく」とのコメントも。

最後に、「ノスタルジック鉄道コレクション」発売にあたりひと言お願いしたところ、企画担当者からは「初回受注の結果は予定より良かったので一安心しています。あとは皆さん遊んでください。売れれば続きます(笑)」と前向きなコメント。企画課長からは「これはと思って(好みに)刺さってもらったなら、買っていただいて楽しんでいただけるといいかなと思います」と、鉄道コレクションの原点回帰にあたり意欲的なコメントをいただきました。

小さな電気機関車・ディーゼル機関車・客車を、自宅で気楽に楽しもう

おうちで楽しむ鉄道趣味に「鉄コレ」を

これまで展開されていた「鉄道コレクション」シリーズの特色である、安価で手に取りやすく、それでいて時々アッと驚くマニアックな車両が登場する点を維持しながら、今では見られないような古い車両をゆるーく楽しめる「ノスタルジック鉄道コレクション」。企画のエピソードを聞けば聞くほど、製品化発表のポスターで発表された「原点回帰」という言葉が良く似合いますね。

新型コロナウイルスの影響で、在宅の時間が増えたことは確か。自宅でも楽しめる鉄道趣味のきっかけに「鉄道コレクション」および「ノスタルジック鉄道コレクション」があると、懐かしい雰囲気の鉄道模型を気軽に遊べることでしょう。

文/写真:若林健矢
※一部写真はトミーテック、鉄道チャンネル編集部提供

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