【MLB】菊池雄星が口にした「野球は30歳を超えてから」 真意に近接する4つ目の白星

マリナーズ・菊池雄星【写真:Getty Images】

「いい感じに裏をかいたリードをルイスがしてくれました」

■マリナーズ 5ー1 レイズ(日本時間19日・シアトル)

30歳を迎えたマリナーズの菊池雄星投手。18日(日本時間19日)のレイズ戦で7回を4安打1失点に抑えた投球には、滋味深い2つの見逃し三振があった。中盤から配した最速98マイル(約158キロ)を計測した威力のあるストレートを相手の意識に擦り込む中で、菊池は「無形の技」を駆使して勝利に近づいていった。試合後、菊池は噛みしめるように言った。「野球は30歳を超えてから楽しくなると、誰かが言っていた。これから楽しくなるんじゃないですかね」。30歳となった翌日の登板で、左腕は現在地を明確にする103球で今季4勝目(3敗)を手にした。

円熟味を感じさせたのは、4回だった。

1死走者なしで対峙したのは6番ブランドン・ロー。昨季、チームのMVPに輝いた野球センスあふれる打者に、投球の機微を穿つ3球勝負に出た。内角のスライダーでファウルを打たせ一気に追い込んだ。1回表の第1打席で、ローは、小さく曲がる難儀なカットボールで空振り三振に仕留められているだけに「そろそろくる」の警戒心を高めていたはず。菊池は、その心中を見透かしたかのように、最後、外角に137キロのスライダーを滑らせた。同じ球種を逆に配して奪った見逃し三振は、相手に「あるぞあるぞ」と思わせながら、その球を1球も使わずに成立させたものだった。

“騙しのサイン”で相手の読みをかく乱する三振も奪った。

「首を振るサインでした。相手にはどのボールが多い(自分の傾向)というのがあるでしょうから。そこで、いい感じに裏をかいたリードをルイスがしてくれました」

5回、先頭のウォールズを速球のみで追い込むと、菊池はルイス・トレンス捕手からのサインに3度首を振った。打者の読みに水を差す、古典的なトリックではあるが、捕手の意図通りにきっちりと投げ込めるのが今の菊池である。力んだ感もあったが、体はしっかりと縦振りとなり球威のある97マイル(約156キロ)のストレートを外角低めぎりぎりのゾーンに決めた。

8度のクオリティスタートも「今はもっと高く、7回2失点を目標にして」

培った「有形」の技も駆使した。リーグ2位の47盗塁を誇る相手に企てすらさせなかったクイックモーションに、菊池は自信をのぞかせる。

「普通に1.2~1.3(秒)くらいのクイックで投げていれば大丈夫。アメリカの野球はそんなにリードは大きくないですから。走者をあまり意識しないようにして、バッターに集中してます」

盗塁阻止には、モーションを起こしてからボールが捕手のミットに収まるまでの限界時間がある。菊池はそれを体に染み込ませている。さらに、完全習得したチェンジアップの握りを分かりづらくするために、グラブの位置をベルトの前に据えたことで、“目力”が使えるようになった。図らずも、顎から下げたグラブの位置が、相乗効果を生み出した。コロナ禍で60試合制となった昨季、菊池は9試合に登板し、許した盗塁は5個。今季はここまでの13試合で僅か1個に留めている。

一塁走者と対峙するセットポジションは「有形・無形の技」を繰り出す“静”の姿でもある。

立ち上がりに力みからバランスを崩し先制点を許したが、2回からは「テイクバックまでリラックスして投げる」意識で修正した。過去9試合で8試合にクオリティスタート(QS=6回以上、自責3以下)を記録した菊池は、言い切った。

「簡単なことじゃないですけど、今はもっと高く、7回2失点を目標にしてマウンドに立っています」

試合後、サービス監督は来月に開催される球宴への推薦出場について「考えるべきだろう」のコメントを残したが、その感想を求められた菊池の反応はクールだった。

「オールスターのことを考えずに次の試合にまた集中してやるだけです」

周囲の思いを一つにするまで、まだ時間はある。隙のない投球術を磨き続ける菊池雄星の姿勢が、ぶれることはない。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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