【マーメイドS】“努力はうそをつかない”11年目藤懸が重賞初制覇 シャムロックヒル逃げ切りV 

人馬共に重賞初制覇を達成し喜びを爆発させた藤懸

20日、阪神競馬場で行われた牝馬限定のハンデGⅢマーメイドS(芝内2000メートル)は、10番人気のシャムロックヒル(4歳・佐々木)が最内枠から果敢に先手を奪って逃げ切り勝ち。騎乗した藤懸はデビュー11年目にしてうれしい重賞初勝利となった。5月のオークスでは16番人気ハギノピリナを3着に持ってくるなど、今年好騎乗が目立つ鞍上。一連の活躍が騎手人生を変えるかもしれない。

「11年目でまだ100勝も達成していないボクを乗せていただいた関係者に感謝です」

レース後、何よりもまず周囲に対するお礼の気持ちを言葉にした藤懸。実直な性格がそのまま出たような勝利騎手インタビューだった。

最内枠で包まれるのを嫌ってハナを奪う形になったが、5ハロン通過ラップは60秒8。速くもなく遅過ぎるわけでもない、まさに絶妙なリズム。2着クラヴェルの追撃をクビ差でしのぎ切れた最大の理由は藤懸の好騎乗にある。

「直線まで手応えが良くて、ずっと先頭を走っていたので“何も来ないでくれ”って無我夢中でした。(2着馬とは)内、外で離れていたのでゴールした瞬間は分からなかったです」

先月のオークスでは16番人気ハギノピリナとのコンビで3着に入って大穴を演出したが、この日は10番人気での初タイトル。騎乗数こそ少ないものの、数多くの厩舎の調教を手伝って真摯に競馬へ取り組んできたからこそ、最高の形で結果として結びついた。

「鞍上の好騎乗だね。ラストに盛り返したのはキズナの根性だろうね。今日は父の日でしょ? キズナが父になってボクに重賞をプレゼントしてくれたね」とは佐々木調教師。自身が管理したキズナ産駒での重賞初Vとあって終始ご満悦だった。

レース自体を振り返ると恵まれた面は否定できない。この3年、3勝クラス在籍馬が軽ハンデを生かして勝利を飾っていたが、今年も一昨年の覇者サラス(51キロ)の半妹にあたるシャムロックヒルが格上挑戦で50キロV。ハンデ戦かつ夏を直前にした微妙な時期ということもあり、一線級は出てこないのがこのレースの特徴だ。斤量の軽い条件馬が好走しても、その後の明るい見通しはつけづらいのが正直なところ。実際、過去3年の優勝馬はその後、未勝利のまま抹消となっている。

また、今回は運も味方した。4頭出た除外馬のうち、ロータスランドが19日の阪神リステッド・米子Sに格上挑戦して快勝し、アカイイトが20日の同3勝クラス・垂水SをV。もし、この2頭がマーメイドSに出走できていれば…。結果は違ったものになっていた可能性もあった。次走はGⅢクイーンS(8月1日=函館芝1800メートル(牝))というシャムロックヒルだが、今後ステージが上がれば苦戦を覚悟しなければならないだろう。

騎手のほうに目を向けよう。レース直後の検量室周辺で厩舎関係者、そして報道陣から祝福ラッシュだった藤懸の姿を見ると、努力はうそをつかないというのをつくづくと感じさせた。アッと驚かせたオークス、そして今回の競馬で全国に「藤懸」の名前を売ったはず。48キロでの騎乗も可能な努力人にはこれから依頼が増えるはず。最近の活躍が騎手生活で大きなターニングポイントになるかもしれない。

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