パラテコンドー・工藤俊介 1年延期でレベルアップ!海外勢をアッと言わせる

わずか3年で五輪切符をつかんだ工藤俊介(全日本テコンドー協会提供)

【Restart パラヒーローズ その壁を乗り越えろ(33)】東京大会で初採用となったパラテコンドー。男子75キロ級(K44)の工藤俊介(27=ダイテックス)が初代王者を目指して奮闘中だ。競技歴はわずか3年弱。伸びしろたっぷりの格闘家が祭典への思いを口にした。

工藤の身に試練が訪れたのは、社会人1年目の秋だった。勤務中の事故で左上腕を切断。「左腕がない状態で生きないといけないのかな」とショックを受けたが「僕以上に家族が落ち込んでいたので、僕が気丈に振る舞っていれば、笑顔を取り戻してくれるのかなと。心から明るくしたおかげで、自分の表情も徐々に明るくなった」と前を向き続けた。

すると、神様が工藤に救いの手を差し伸べた。たまたまSNSでパラアスリートを募集する記事を発見。すぐさま記事元の担当者に電話をかけ、パラアスリート発掘プログラムに参加したところ「パラテコンドーに向いているんじゃないか」と声をかけられ、競技の世界に飛び込んだ。

当初から目標は「東京大会に出場すること」。半年後にはテコンドーの名門として知られる大東文化大での武者修行を決断した。「すさまじい威力で蹴られて、毎回すごい苦しいなと思っていた」と悪戦苦闘しながらも「蹴り一つや技術一つとってもすべてがプラスになった」と着実に進化を遂げていった。

そして、2018年全日本選手権で初優勝を果たすと、19年世界選手権では銅メダルを獲得。一躍東京大会のメダル候補に名乗りを上げた。それでも「海外の選手は体格が違うし、考えていることもなかなか分からない感じがした。自分の苦手なところを克服するために、練習でしっかりできるようにするのが大事」と、さらなる高みを見据えている。

だからこそ、東京大会の1年延期は大きなプラス。コロナ禍の影響でしばらく海外勢と対戦できていないが「僕からしたらライバルたちのことは分からない。でも、ライバルからしたら(競技歴の浅い)僕の情報はほとんどない状況。1年延期となった期間で自分自身がレベルアップしていけば、本番のときとのギャップでいける」ときっぱり。「金メダルを獲得し、お世話になった方たちに恩返しをする」と意気込む工藤の目に迷いはなさそうだ。

☆くどう・しゅんすけ 1993年10月31日生まれ。岐阜県出身。幼少期から活発な少年で、学生時代は剣道、テニス、バドミントンなどを経験。社会人1年目の2016年に仕事中の事故で左上腕を切断した。パラアスリート発掘プログラムでパラテコンドーと出会い、18年から本格的に競技をスタート。19年世界選手権で銅メダルを獲得すると、20年1月の代表決定戦を制し、夢切符を勝ち取った。プロ野球の中日ファンで今年からファンクラブに加入した。180センチ、76キロ。

© 株式会社東京スポーツ新聞社