金星ではブロック状に分かれた地殻が運動? 現在も地質活動が続いている可能性を示した研究成果

【▲ ブロック状に地殻が分割された領域の一つとされる、アルテミス谷(Artemis Chasma)の東隣に位置する「Nuwa Campus」(2400×1500km)を示した画像。金星探査機「マゼラン」のレーダー観測データをもとに作成(Credit: Paul Byrne, based on original NASA/JPL imagery)】

アメリカ航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)が相次いで新たな探査ミッションを発表した太陽系の惑星「金星」。地球のすぐ内側を公転する惑星ではあるものの、地表が厚い硫酸の雲に覆われている金星には今も多くの謎が残されています。そんな金星をめぐる謎の一つである地質活動に関する新たな研究成果が、ノースカロライナ州立大学のPaul Byrne氏が率いる国際研究グループによってまとめられました。

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■断片化した地殻がマントルの対流によって動いている可能性

地球の表面はプレートと呼ばれる複数に分割されたリソスフェア(岩石圏、地殻とマントル最上部からなる)に覆われています。プレートはその下にあるマントルが対流することで1年間に数cm程度の速度で動いていて、プレートどうしはぶつかりあったり離れあったりしています。このようなプレートの運動とその結果生じる現象を説明する理論はプレートテクトニクスWikipedia)と呼ばれています。

研究グループによると、金星のリソスフェアは地球のプレートのように分割されてはおらず、全球規模で連続しているとこれまでは考えられてきたといいます。ところが、研究グループが1989年に打ち上げられたNASAの金星探査機「Magellan(マゼラン)」による地表のレーダー観測データを調べたところ、地殻がブロック状に分割されているとみられる領域が金星全体の低地で複数見つかったといいます。

発見されたブロック状の地殻の内側は変動の影響が少なく、溶岩流や少数のクレーターが見られる程度であるのに対し、ブロック状の地殻全体は変動によって生じた複雑な地形に囲まれているとされています。これらブロック状の地殻は横方向に移動して周囲の地殻と押しあったり離れあったり、あるいは端がこすれあうように回転していたと考えられていて、発表では凍った湖に浮かぶ氷の動きになぞらえて「パックアイス」(※)テクトニクスと表現されています。

※…pack ice、流氷や叢氷(そうひょう)のこと

研究グループがシミュレーションモデルを用いて分析したところ、金星のブロック状の地殻の運動は地球のプレート運動と同じようにマントルの対流によって引き起こされたことが考えられるといいます。Byrne氏は「地球で起きていることと同様に、観測結果は金星内部の動きが表面の変動を駆動させていることを伝えています」「巨大な山脈や沈み込み帯を形作る地球のようなプレートテクトニクスとは異なりますが、マントル対流による変動の証拠となるものです」と語っています。

研究グループは、幾つかの領域では地質的に若い溶岩平原が形成された後にリソスフェアが断片化したとみられることから、金星の地質活動が(地質学的な意味で)ごく最近まで、場合によっては現在も続いている可能性を指摘しています。また、今回発見された浮氷のようなブロック状の地殻の運動が、古代の地球や太陽系外惑星における地殻の変動を理解する手がかりになるかもしれないと研究グループは考えています。

Byrne氏は、2020年代後半~2030年代にかけて実施が予定されている金星探査ミッション「DAVINCI+」「VERITAS」(NASA)および「EnVision」(ESA)によって今回の成果が検証できる機会に大きな期待を寄せています。

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Image Credit: Paul Byrne, based on original NASA/JPL imagery
Source: ノースカロライナ州立大学
文/松村武宏

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