閑古鳥から満員御礼への軌跡 DeNA初代監督・中畑氏が徹した“営業マン”役

オンライン記者会見に出席した中畑清氏(右)と著者・二宮寿朗氏【写真提供:双葉社】

球団誕生の軌跡を綴ったノンフィクション刊行記念イベントに出席

横浜DeNAベイスターズ誕生から10年の軌跡を綴った書籍『ベイスターズ再建録「継承と確信」その途上の10年』(双葉社)の刊行記念オンライン記者会見が24日に行われ、DeNA初代監督の中畑清氏が著者・二宮寿朗氏と就任当時を振り返った。

10年前にはガラガラだった横浜スタジアムの客席だが、今ではチケット入手が困難な人気球団へと変貌。この10年の軌跡を、選手ではなく球団を内側から支えた職員にスポット当てて描いたスポーツノンフィクションで、同書の中で中畑氏は就任当初の率直な思いを明かしている。

この日の記者会見でも、当時のエピソードを披露。「球団事務所に就任挨拶に行き『こんにちは、監督に就任した中畑です!』と大きな声で一発カマしたら、シーンと静まり返ってしまった。元気がない、覇気がない、目的意識がない、熱量がないというのが第一印象だった」と振り返り、「すぐに職員全員を集めて挨拶の仕方から練習させましたよ」と豪快に笑った。

チームを率いた4年間は成績こそ振るわなかったが、中畑氏の積極的な話題提供が奏功し、メディアに取り上げられる機会は増加。いかに世間の注目を集めるか。自身は「営業マン」の意識が強かったと振り返る。

「プロ野球は観てもらってなんぼの世界。どうお客さんを満席にするか。グラウンドはステージ。そこにどれだけ魅力的な選手がいるか、スターがいるか。それを捻出するのが監督。俺が目立っていたけど、俺くらいしか目立つ人がいなかったから(笑)」

三浦監督に日本一への“リミット”提言「3年以内」

現役時代は巨人の大先輩、長嶋茂雄氏や王貞治氏の懇切丁寧なファン対応を見て育ち、ファンサービスは当たり前と体に染みついている。メディア対応もその1つ。「マスコミの前に出るの大好きだから」と笑わせたが、在任した4シーズンは「ファンは負けた時の監督の心理を生の声で聞きたいはず。言い訳も含めてね(笑)」と一度も試合後の取材を断ることはなかった。ファンを大事にする姿勢は選手にも伝えてきたこと。「選手も1人1人がセールスマン。12球団で一番ファンサービスができるチームとして認識されるようになり、グラウンドと観客が一体となるチームになってきた」と大きな笑みを浮かべる。

今季、三浦大輔新監督を迎えたチームは苦しいスタートとなったが、交流戦を機に流れを引き寄せつつある。中畑氏は「(就任1年目、2012年シーズンの)俺よりスタートとしては悪い方だよね。厳しかったけど、選手が復活して揃ってきたので、ある程度戦えるチームになってきた手応えはあるはず。新しいDeNAを大輔の色を出しながら、投手力をメインにやってほしい」とエールを送る。

同時に「(自分の)希望もあるけど、3年以内」と日本一への“リミット”を提言。「三浦監督の“寿命”もそのくらいだと思う。3年以内という覚悟を持って、やっていくチーム方針でいけば、スタンドのファンにも空気が伝わって盛り上がる。3年以内というのを、大輔がどう感じ、どう対応して、どう成長させるか」と期待を寄せた。

「俺はずっと最下位。文句ある?(笑)」とキヨシ節で締めくくった中畑氏。監督の座を退いた今もなお、球団への愛は薄れることはないようだ。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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