ワクチン接種券気付かず放置 視覚障害者へ配慮を

 長崎県内で新型コロナワクチンの接種ペースが加速する中、長崎市が視覚障害者への配慮を怠っていたことが明らかになった。「ナガサキポスト」に情報を寄せた市内の自治会長の60代男性によると、全盲の独居高齢者Aさんにも点字がない接種券が届き、本人が気付かないまま放置されていた。男性の投稿に、怒りがにじむ。「ひとりも取り残さない、見逃さない優しさが不足しています」
 男性は今春から、成年後見人として2人態勢でAさん(80代男性)を支援している。先月、もう一人の後見人がAさんの枕元で、接種券の封筒が、他の書類に交じって置かれているのに気付いた。ホームヘルパーか誰かが玄関から持ってきたとみられるが、Aさんは「接種券だと分からなかった」と話したという。
 Aさんは点字を読めるため、封筒や接種券などに点字が付いていれば自ら内容を理解できたはずだった。男性は、市に対する思いを記者に語った。「ワクチン接種事業が大変なのは分かる。でも最も困っている人に配慮していくのが、行政のあるべき姿では」
 全盲の人たちは、印字された郵便物だけでは内容を確認できない。一方で市視覚障害者協会の坂本和秀会長(62)によると、同居する家族やホームヘルパーの助けを借りる他に、点字や音声データ、読み上げソフト用のテキストデータなどがあれば情報を得られるという。
 今回の件について、坂本会長は「自分の危機感が足りず市に要望するのが遅かった」と前置きした上で、「(障害者への配慮は)こちらが何も言わないと、何もしてくれないことは多い。どんな支援をすべきか分からなければ、もっと当事者に相談してほしい」と話した。
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 Aさんはその後、ケアマネジャーを介してワクチン接種を予約し、今月中に2回目を終える見込み。これまでは外出を控えていたが、後見人の男性らと安心して久々の散歩に出掛ける日を楽しみにしているという。(三代直矢)

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