桐生、サニブラウン五輪落選の原因は… 北京メダリストの〝予言〟が的中

5位に終わり東京五輪を逃した桐生

まさかの〝共倒れ〟だ。陸上の東京五輪代表選考会を兼ねた日本選手権第2日(25日、大阪・長居)、男子100メートル決勝は多田修平(25=住友電工)が10秒15(追い風0・2メートル)で初優勝。3位で日本記録保持者の山県亮太(29=セイコー)とともに五輪代表を決めた。一方、桐生祥秀(25=日本生命)は5位、サニブラウン・ハキーム(22=タンブルウィードTC)は6位と振るわず落選。実は、元五輪メダリストはレース前から日本期待のツートップへの不安を指摘していた。

一瞬も目が離せない〝一発勝負〟だった。多田は持ち味のスタートダッシュで前に出ると、ぐんぐん加速してトップを争った山県を退け、1着でフィニッシュ。選考会独特の空気に包まれたスタジアムは大きな拍手が響き渡った。優勝インタビューでは「ここまで来るのは本当に長かったんですけど、皆さんの支えがあったからこそ、ここまで来れたと思います」と話し、目に涙を浮かべた。

「僕は2位とか4位の選手」と話すように、話題はいつも〝自分以外〟だった。ただし、大崩れすることが少なく、先月の五輪テスト大会は優勝したジャスティン・ガトリン(39=米国)に100分の2秒差で2位。また、今月6日の布勢スプリントは山県が日本新を出したレースで、五輪の参加標準記録(10秒05)を突破する10秒01をマークするなど虎視眈々と主役を狙っていた。

一方で、ファンの大きなタメ息を誘ったのが桐生とサニブラウンだ。5位に終わった桐生はかねて右アキレス腱の痛みを訴えており、24日の準決勝後は「歩いているだけでも痛い」と訴えていたほど。この日の決勝後には「足の痛みのせいでこの順位になったと思われてしまうので、足の状態にはお答えできない」と言葉を濁したが、敗因はケガの影響だけではなさそうだ。

2017年に日本初の9秒台をマークした桐生は、これまでCM出演やコロナ禍のオンラインイベントといった本業以外にも積極的で、長年にわたって男子短距離界をけん引。東京五輪に向けても抜群の注目度を誇っていた。

しかし、その桐生の代表入りを不安視していた人物がいる。北京五輪男子400メートルリレー銀メダルの高平慎士氏(36)はレース前から「メンタルの部分で揺れる可能性が高く、あとがない状況の試合で力を発揮するのが苦手そうな印象」と指摘していたのだ。

振り返れば17年日本選手権は4位で世界選手権の個人代表を逃し、翌年は3位でアジア大会の個人代表を逃している。また、先月の五輪テスト大会ではガトリンとの対決前に、まさかのフライング失格となった。この日も大一番での〝勝負弱さ〟が出てしまったということなのか…。

6位に終わったサニブラウンは先月31日に米国で出場したレースが実に1年8か月ぶりだった。その時の映像を見た高平氏は「(間隔を空けた)意図は分からないが、試合勘がなさそうな走りだった。日本での隔離期間などを経て、うまくいくのかなという心配はある。山県君や多田君に気持ちよく先行させすぎると追いつかないが、それができるようなレースではなかった」。まるで、今回の結果を〝予言〟するようなコメントも残していた。

サニブラウンも早くから注目を集め、15年の世界ユース陸上では100メートルと200メートルで2冠を達成。同年の世界陸上200メートルでは史上最年少の16歳で準決勝に進出し、国際陸上競技連盟の新人賞にも輝いた。その後はフロリダ大に留学し、本場の米国に拠点を移して強化を続けてきた。

日本短距離界の期待を背負って立つツートップが揃って代表入りを逃すとは、陸上関係者にとっても想定外だったに違いない。Vの多田や日本記録保持者の山県とは、くっきりと明暗が分かれた格好だ。

© 株式会社東京スポーツ新聞社