潜入撮!福島帰還困難地域に広がる「未知の世界」 イノシシ増殖、クマの目撃情報も

町内の至る所に汚染土が詰まった黒い袋が並ぶ(福島・大熊町)

東京電力ホールディングスが29日に株主総会を開き、小早川智明社長が「柏崎刈羽原発で起こった核物質防護の不備などで社会に不安を抱かせている」として陳謝した。世界を震撼させた東京電力福島第1原発の事故から10年あまり、改めて原子力の安心安全な運用の難しさが浮き彫りになった形だ。経済産業省と東京電力の協力を得て、福島第1原発とその周辺に広がる帰還困難区域を取材すると…。そこには知っているようで知らない“未知の領域”が広がっていた。

視察用のバスを降りて通称“高台”と呼ばれる場所に降り立つと、目の前には映像でしか見たことがなかった東京電力福島第1原発1~4号機のガレキと化した無残な様が広がっていた。2011年3月11日の東日本大震災(地震の最大震度は7)で同原発を襲った高さ約15メートルもの大津波は、海抜約10メートルに建てられた1~4号機をのみ込み、核燃料棒冷却用の外部電源と非常用電源が喪失。1~3号機がメルトダウンし、複数回の水素爆発を起こして北西方向を中心に放射性物質が飛散する、未曽有の複合災害を引き起こした。あれから10年以上が経過。敷地内には海洋放出が決まっている汚染処理水のタンクが無数に立ち並ぶ。最長40年とされる廃炉作業は今も続くが、目の前にある1号機の原子炉建屋は水素爆発で上部の隔壁が吹っ飛んだ当時のまま、ずっと象徴的な姿で存在し続けている。

入構の際に着用を義務づけられた線量計が時折、鳴り響く。1回の視察で許される積算放射線量は100マイクロシーベルト。20マイクロシーベルトを超えるごとに鳴る仕様だ。“高台”は1号機まで直線距離にして80メートルの位置にあり、ちょうど1時間で許容線量に達する毎時100マイクロシーベルトを計測する。これは飛行機で東京―ニューヨーク間を往復した時に浴びる線量と同等だが、実際に1~4号機を前に鳴り響くと心中穏やかでない。

しかし、これ以上に線量が高いエリアもある中、一日平均で約3000人が廃炉作業に携わっているおかげで、「安全安心」を過信したツケが払われているのだ。

その後、年間積算放射線量が50ミリシーベルトを超える「帰還困難区域」に入ることが許された。福島第1原発がある大熊町と双葉町など、今も7つの自治体の一部が指定されたままで、原則立ち入りが禁じられた“未知の領域”だ。

帰還困難区域の内部は当然ながら人の気配がなく、あるじを失った民家は青々としたツタに絡まれて10年の歳月を感じさせる。また、かつて田畑だった場所には除染で取り除いた汚染土を詰めた黒い袋が無数に広がり、時にはかつての道路脇や民家の庭にまでビッシリと置かれていた。海岸近くには津波にのまれたかつてのヒラメ養殖場があったが、屋根や壁は破壊され、強固なはずの鉄骨や配管までがひしゃげられたまま残っていた。福島沖は国内有数のヒラメの産地で「常磐もの」として高値で取引されていたが、今は原発の風評被害もあって、かつての出荷量には遠く及ばない状況が続いている。

3・11直後に設定された避難指示区域は現在までに7割が解除されたが、人口は事故当時の3割弱と過疎状態。チェルノブイリ原発事故では周辺に人がいなくなったことで野生動物が増加したが、福島第1原発の周辺でも「原発がある浜通りはクマはいないと言われてきたが、ここ数年、目撃情報が増えた。イノシシも本当に多くなった」と口をそろえて話す。

実際、夜間に帰還困難区域に近いホテル周辺を歩くと、フクロウの声に紛れて林の中から木の枝が折れる音が聞こえてきた。ライトを向けた先にいたの大きなイノシシだった。

米生態学会の報告によると、福島第1原発の帰還困難区域を中心にサルやイノシシなど20種以上の野生動物の生息が確認されている。中でもイノシシはかなり個体数が増えているという。実際、2メートル級のイノシシの目撃情報も少なくなく、原発事故前とは違う環境ができつつある。ちなみに3・11をきっかけに、避難指示区域では数多くのペットや家畜が野に放たれた。牛や豚のほかダチョウなどもいたが、多くは捕獲済みだという。しかし、すべてを捕獲できたわけではなく、原発災害は人と同様に動物たちにも影響を与え続けている。

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