SYNTIUM LMcorsa吉本大樹が語るGRスープラ初年度の奮闘と、“最近の若手”河野駿佑

 スーパーGT第2戦『たかのこのホテル FUJI GT 500km RACE』のGT300クラスを制したSYNTIUM LMcorsa GR Supra GT(吉本大樹/河野駿佑)。終盤になってトップをいく埼玉トヨペットGB GR Supra GTがトラブルで脱落したことによって転がり込んだ勝利という側面もあったが、週末を通して見せた速さ、そしてSUBARU BRZ R&D SPORTやARTA NSX GT3など、近年のGT300上位勢を力でねじ伏せての優勝によって、新たなタイトルコンテンダーの登場を強く印象付けたのも確かだ。

 2レースを終え、吉本と河野は首位と1ポイント差のランキング2位につけている。チームを牽引する吉本に、改めてこの勝利に至るまでの道程と、コンビを組む河野の印象、そしてタイトル争いへの見通しなどを聞いた。

■GRスープラは「しっかり反応する」クルマ

 チームは今季、レクサスRC F GT3からGRスープラGTへと参戦車両を変更するという大きな決断を下した。吉本としても6シーズン、ステアリングを握ってきたRC Fからの乗り換えとなった。

 チームがマシンの変更を決めたのは、「昨年の後半」だったと吉本は言う。

「結局、RC FもアップデートとかEvoキットが出てくるわけではないですし、そういったものがない中では限界があるな、とずっと思っていました。そこで(チーム母体の)大阪トヨペット的にも、『結果が出ないレースを続けるよりも、ひとつチャレンジをしよう』と決断してくれたんです」

「やっぱりクルマを変えるって、ビッグチェンジですからね。使えない機材が出てきて新調しなければいけなかったりとか、コストもすごくかかるわけです。でも、そこを『よし、やろう』と決断してくれた。それに対して、こうやって早々に結果が出たということで、ちょっと安心しています」

 吉本はGRスープラの印象を「少しクルマを触れば、しっかり反応してくれる。そこは正直、RC Fとはちょっと違う部分」と語っている。裏を返せば、FIA GT3規定のRC F GT3と比べ、GT300規定(昨年までのJAF-GT300規定)となるGRスープラにおいては、より繊細なセットアップが求められるということだ。

 チームは開幕前のテストと第1戦という限られた機会をフル活用し、第2戦に向けてはセットアップに“ビッグチェンジ”を施したマシンを用意していた

「こういう規定のクルマだと、組み上がっただけでは速く走れない。そこでいろいろと改良を加えていって、第2戦では走り出しからフィーリングが良かった」と予選3番グリッドを確保した。

 チームは今年マシンだけでなく、タイヤもダンロップへと変更している。昨今、安定したパフォーマンスを見せているダンロップもまた、SYNTIUM LMcorsa GR Supra GTの上位浮上の大きな要因だ。

 ただ、開幕戦に比べ気温が上昇する第2戦に向けては、吉本には不安があったという。

「岡山でもスティント後半までタイヤは良かったですが、富士では路面温度が全然上がっていたし、そのなかで僕らは持ち込んだ中で柔らかい方のゴムを選択していた。ロングランもあまりできていなかったですし、すごい勢いでドロップするんじゃないかっていう固定観念がありました」

「でも、いざレースが始まってみると同じようなタイヤを使っていたと思われる61号車(SUBARU BRZ R&D SPORT)含め、全然落ちてこない。そこで初めて、これはいけるかな、と思いました」

 スタートを担当した河野はすぐに2番手に浮上すると、そこからはトップをいくBRZとのマッチレースの様相を呈した。

■勝負のカギとなった2台のGT-Rとの攻防

 だが、各車のピット戦略が分かれた第2スティント、4輪交換を選択したSYNTIUM LMcorsaは順位を下げてしまう。周囲の戦略が把握できないままステアリングを握っていた吉本は、リアライズ日産自動車大学校 GT-Rの攻略にやや時間を要してしまった。

「向こうも(第1戦優勝分のサクセス)ウエイトがつらい状態だったとは思うんですが、どうしてもストレートは速い。そうこうしてるうちに後ろから11号車(GAINER TANAX GT-R)が来てしまい、これにも前にいかれてしまったら相当やっかいだな、と」

「一度ヘアピン(アドバン・コーナー)でアウトから抜きに行って外に押し出されたんですけど、そのあとしばらくしてから最終でインに入りました。これは11号車に前に行かれないように、という意味もありました」

 吉本は1(TGR)コーナーのアウト〜コカ・コーラコーナーのイン側で、リアライズをオーバーテイク。この『ゲイナーに抜かれずに、リアライズを抜く』というミッションを遂行できたことが、最終スティントに向けたポジション取りという意味で、大きかった。

 それだけではない。第1スティントに河野が抜きあぐねたBRZを、吉本はピットイン直前に攻略している。

「61号車は2回目のピットで2輪交換という可能性もあると思っていたので、もう絶対に前に出た状態でピットに入らないといけない、そう思ってました」

 再び河野がステアリングを握った第3スティント、吉本はピットから戦況を見守った。

「トップの52号車(埼玉トヨペットGB GR Supra GT)にも、最終ラップ付近では追いつくだろう、というペースでした。結局彼らはいなくなったけど、後ろから来ていた61号車も、落ち着いて走ってくれれば大丈夫だろうな、と。まぁ、ドキドキでしたけど(笑)。でも、守り切って、すごくカッコいいレースをしてくれて良かった」

 吉本とチームは2019年の第6戦オートポリスでも勝利を挙げている。しかし、「あのときは運が9割。天気と残り周回数と、スリックでいくという決断をしたのが大きかった。だけど今回はチームワークも素晴らしかったですし、タイヤのパフォーマンスもすごく良かった。自分たちの力で勝ち取ったという感じはします」。

 とはいえ、埼玉トヨペットの脱落による勝利であったことは少々心残りであり、吉本大樹はフィニッシュ直後にも「ガチンコで52号車やほかの強豪チームにもに勝てるようにしたい」と口にしていた。

「彼らも1年間クルマを開発して今があるので、いきなりそこに追いつくというのはなかなか簡単ではない。また、ブリヂストンさんに関してはダメなときというのが極端に少なく、ベースのレベルがすごく高い。クルマの差というよりも、タイヤの差もすごく出てくると思います」

 今後カギとなるのが、暑い時期のレースにおけるタイヤを含めたパフォーマンスと、サクセスウエイトとの付き合い方だ。SUGOはタイヤテストで走行しているが、その他のサーキットでは今年のパッケージで走行経験がないという。

「SUGOのテストではウエイト積んで走ったんですけど、重さを感じました。最終コーナー、登っていかないです」

「鈴鹿は悪くないんじゃないかという印象があります。加速と直線スピードが重要なもてぎは、苦手とする部類のような気もします。ただ、ブレーキはいいですし、良い意味でそのあたりを裏切ってくれるパフォーマンスを出せたらいいですね」

■河野駿佑の“お上品な不良”化計画?

2021スーパーGT第2戦富士 SYNTIUM LMcorsa GR Supra GT(吉本大樹/河野駿佑)

 昨年40歳を迎えドライバーとしてベテランの域に達している吉本は、GTでは2018〜19年には宮田莉朋、2020年からは河野と、若手ドライバーと組み、彼らをリードしながら戦う立場でもある。“最近の若手”たちを、吉本はどう見ているのだろうか。

「僕も(キャリアの)スタートは遅かったですが、それでも僕らの頃は“体育会系”だったと思うんですよ。最近はFIA-F4でも若手をずっと見てきましたけど、なんかこう元気がないというか……。たとえば朝の挨拶も『おはようございますっ!』みたいなのはなくて、数年前までは『なんやねんこいつら』って正直思ってたんです」

 その印象が変わったのは、2018年に宮田とコンビを組み始めてからだという。

「莉朋も(体育会系とは)真逆じゃないですか。でも、独特のスタイルを持っているし、『こういうのもアリなんやな』という、柔らかい目で見れるようになった気がしますね」

「もちろんパフォーマンスがすべての世界ではあるんですけど、やっぱりスポンサーありきのスポーツなので、表向きの顔というのもしっかりとしておかないといけない。『自分が商品だというつもりでやらないといけないよ』というのを、若手みんなに言っています」

「そういう意味では、莉朋は2年間一緒にやっていくなかで人間性もすごく変わった。僕らは関西のチームで非常に明るいとうか、あまり気を使わず、緊張せずにレースできる環境というのを与えられたんじゃないかと思います」

 2020年、宮田に代わってその環境に飛び込んできたのが河野だった。

「駿佑に関してはずっと前から一緒に(RSファインのデータエンジニアとして)チャイナGTとかスーパー耐久なんかをいろいろやっていますし……でもあいつ、まだボケとツッコミができてないんで、そこら辺は僕の教育がまだまだだなと(笑)」

 富士では、予選Q1とスタートを河野が担当した。吉本が「今回はQ1とスタート、やるんでしょ?」と唆した結果のことではあるようだが、それを拒否しなかった河野の姿勢に「今年は手応えを感じているんだと思います」と吉本。

「莉朋も駿佑もそうですけど、走り始めから目立ったミスとかはないんですよ。でも若手なんでね、公式練習なんかはもっとガンガンに行ってもいいと思う。たぶん、飛び出したら怒られるというのをお父さん(RSファイン河野高男エンジニア)から学んだんでしょうけど(笑)。でも若手とはいえ全然安心して見ていられるし、ますます磨きがかかってきていると思いますよ」

「あとは駿佑がGTと同じくらいの自信を持って、スーパーフォーミュラ・ライツで頑張ってくれたらいいんですけどね」と、吉本は河野のフォーミュラでの飛躍も願っている。

 あとは、もう少しの“ワイルド化”だ。

「すごい優しい性格をしてるんで、もうちょっと不良に仕立て上げようかなと思ってます。とはいえディーラーチームなので、あまり悪いイメージを付けすぎず、“お上品”に(笑)」

2021スーパーGT第2戦富士 SYNTIUM LMcorsa GR Supra GT(吉本大樹/河野駿佑)

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