【おんなの目】 日常のこと

 押入れを開ける度に座布団と、にらめっこをする。押入れの半分を二十枚の座布団が占めている。古い物で破れた表布からは綿がはみだしている。座布団の必要な客なんてもう何年も我が家には来ない。光沢のある粘った綿や、山葡萄の品のある模様に威圧されて、捨てられない。なにかの本に「愛とは捨てないことである」と書いてあった。長年一緒にいるので、いつの間にか座布団を愛してしまったらしい。     

 座布団    万亀佳子   

 座敷の隅から運ばれて/すすめたり、 すすめられたり/取り澄ました挨拶のやり取りに/押しやられたり押し戻されたり/畳の表で逡巡の挙句にすっと膝の下に引き込まれて/尻の重さを引き受ける//床の間の軸が褒められ/花が愛でられる/座卓の上で練り菓子が華やいでいる/その陰で痺れてもぞもぞうごめくもの/一生懸命耐えている下積みの苦痛を/押し付けられる//重圧を跳ね返すだけの力はない/反発する力などはなから持たず/黙って受け止めるだけ/長い時間/浮かされる腰の愚痴を聞いている    

 押入れの座布団達にひれ伏す。長い間、様々の人のお尻の重圧に耐え、愚痴を聞いて下さったんですね。さぞかしお疲れになられたことでしょう。どうぞゆっくりおやすみ下さい。捨てるなんて滅相もない。

© 株式会社サンデー山口