鉄道の未来が見えた!? 6回目の「駅と空港の設備機器展」に1万人来場 JR東日本のオープンイノベーションセミナーなど【コラム】

感染拡大防止のため通路スペースをたっぷり取った会場全景

交通とモビリティー(移動)の総合展示会「駅と空港の設備機器展」が、2021年6月23~25日に東京都江東区の東京ビッグサイトで開かれ、1万0700人(併催イベント含む)が来場しました。2016年の初回から数えて6回目で、同じ会場で開かれた6回目の「バス・トラック運行システム展」、4回目の「駐輪・駐車場システム・設備展」、今回が初めての集中展示「感染対策×交通インフラWEEK」をあわせ、主催者側は開催週間を「交通インフラWEEK2021」と呼びます。

2020年の前回は新型コロナで中止だったため、今回は2年ぶり。同じビッグサイトでは、ものづくり総合展「TECNO-FRONTIER(テクノフロンティア)2021」、工場・エンジニアリング総合展「INDUSTRY-FRONTIER(インダストリフロンティア)2021」も開かれ、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)を活用した、産業の総合展になりました。会場とオンラインでの取材から、鉄道事業者と有識者の講演2題、さらには注目の出展企業を紹介します。

さまざまなサービスを提供する〝総合ステーション〟に飛躍する駅

主催者は日本能率協会で、企業・団体307社(者)が出展しました(テクノフロンティアなどを含む総出展者数です)。ほかに会場では、猛暑対策展、労働安全衛生展も開かれました。多分野の展示会を同時開催することで、出展者、来場者双方にビジネスチャンスが生まれます。

鉄道分野の展示会テーマは「駅」。最近の駅は、列車に乗降するだけでなく、買い物や飲食をしたり、各種サービスを受ける〝総合ステーション〟に進化を遂げつつあり、新しい駅のあり方が会場から発信されました。

鉄道事業者の直接の出展はありませんでしたが、主催者セミナーで講演したのは、JR東日本技術イノベーション推進本部の入江洋次長。若干長めのタイトルは、「オープンイノベーションによる新しい顧客価値の創出~モビリティ変革コンソーシアムの取り組み~」です。

講演する入江JR東日本技術イノベーション推進本部次長。案内AIと人手(JR東日本社員)による案内の比較では、臨機応変な対応や心を込めたホスピタリティー(もてなし)といった点で、まだまだ人に軍配が上がりそうです。

タイトルのオープンイノベーションとは、自社(=JR東日本です)以外の企業・研究機関の技術や研究成果を取り入れて、新しい企業価値を生み出すこと。モビリティ変革コンソーシアムは、移動に革命を起こすための共同事業体といったところでしょうか。

世の中にはJR東日本はもちろん、さまざまな鉄道事業者がスタートアップ(ベンチャー企業)などと組んで、列車運行を近代化・効率化したり、新規事業に進出するニュースがあふれています。

案内ロボットにビビる!?

高輪ゲートウェイ駅でお披露目されたAIロボット

入江次長は、オープンイノベーションの具体例として「案内AIみんなで育てようプロジェクト」を披露したのですが、私が思わず膝を打った話を。案内AIとは、要するに駅の案内ロボットのこと。読者諸兄にはJR東日本が2020年のちょうど今ごろ、ロボットによる駅サービスを実証実験したのを覚えている方もいらっしゃるでしょう。

私が、なるほどと思ったのはーー講演によるとやはり、自走するロボットに驚かれてしまった方が多かったようです。発想は良かったと思うのですが、実際に駅でロボットに「何かお困りですか」と話し掛けても、ほとんど答えは返ってこなかったそうです。

そう、まじめな人ほど、「ロボットが答えられないような質問をしたらマズい」と考えてしまいますよね。JR東日本は結局、無難な受話器式にしたそうです(現在はコロナ感染拡大防止のため使用停止)。

東京感動線イベントでスマホにVR画像

このほか、次世代サービスとして例示されたのは、山手線特定駅での東京感動線イベント「HAND! in yamanote line(ハンド!イン山手ライン)」、東北の気仙沼線BRT(バス高速輸送システム)の自動運転など。2020年11月の東京感動線は、例えばスマートフォンを東京駅に向けてかざすとVR(仮想現実)の画像が、駅に重なって表示されるような催しでした。

こうしたイベントが鉄道事業者にどれだけの価値をもたらすのか、私には計りかねる面もありますが、とにかくコロナで沈む時代に、一筋の光明になったのは間違いないところでしょう。

入江次長は、「JR東日本は、今後もオープンイノベーションでさまざまな分野に挑戦していく。パートナー企業の応募を待っている」と期待していました。

画像付きインターホンでサービスアップ

次の講演に移る前に、ビッグサイトの展示会場で目に止まったいくつかの出展企業に話を聞きました。

名古屋市のインターホン・ドアホンメーカーのアイホンは、「交通インフラ拠点向け連絡システム」を実演しました。名前だけだと何やら難しそうですが、要は無人駅の問い合わせに答えるインターホンシステムのこと。音声だけでなく画像も送れるので、より的確にサービスできます。

ボードの文字も鮮明に見える、アイホンの「交通インフラ拠点向け連絡システム」

カメラは券売機横と天井の2カ所に取り付けられ、有人駅のモニターに表示されます。複雑な経路のきっぷなど声だけで分かりにくい場面でも、券面が見られれば駅側は的確に判断でき、利用客にも納得してもらえます。採用企業の湘南モノレールは、湘南深沢など無人6駅からの問い合わせに、有人の大船、湘南江の島の両駅が対応します。

駅構内の画像監視、ベンチ、ゴミ箱、誘導ブロック……

東京の無線機器メーカーのハイテクインターは、駅構内の映像監視にノウハウを持ちます。駅構内に無線LANネットワークを構築する仕組みで、既存の駅監視カメラのネットワークを活用すれば、電源工事は不要。通信距離は最長900メートルで、広い構内もカバーできます。

大阪市のテラモトは、駅ホームのベンチのメーカー。腰掛け部分が短い省スペースベンチなら狭いホームにも設置できます。富山県高岡市のカイスイマレンは、駅のゴミ箱を製作します。福井県永平寺町のサカイ・シルクスクリーンは、駅ホームの視覚障がい者用誘導ブロックのメーカーです。

最近は駅ホームでよく見掛けるテラモトのベンチ

鉄道は、いろいろな専門メーカーの製品や技術に支えられている――。「駅と空港の設備機器展」の会場で、そんなことを考えました。

スペキュラティブ・デザインで課題解決

オンラインセミナーでMaaSを紹介する西山東京都市大准教授。以前の取材では、「MaaSでクルマが売れなくなると思い、自動車メーカーは頻繁に話を聞きに来るが、鉄道事業者はあまり来ない」と話していました。

最後にセミナーをもう一件、オンライン配信された有識者による講演から、東京都市大学都市生活学部の西山敏樹准教授の「近未来の交通運輸サービスのとらえ方と必要な技術像」を取り上げます。西山准教授の専門は、一般市民の目線で見たモビリティー(移動)。具体的には、交通の総合情報基盤・MaaSで鉄道業界の進化を後押しします。

講演で挙げたキーワードは、「スペキュラティブ・デザイン」。私も初めて聞いた専門用語ですが、最初に将来の理想像を描いて、そこから現在にさかのぼり、何をすべきかを考えるデザイン手法――といわれてもさっぱり分かりませんが、西山准教授が鉄道で例示したのが、新幹線や在来線特急で進む「貨客混載」です。

当然ですが、鉄道は座席にお客が座った場合だけ利益を生み出します。しかし現在、コロナで多くの席は空いている。空いている座席で利益を生み出す――が理想像。そこで、空席にお客の代わり荷物を乗せて利益を生み出すことにしたのが、貨客混載です。

スペキュラティブ・デザインで描いた将来の鉄道では、環境性能に優れた「蓄電池新幹線」が登場するかも(画像:西山東京都市大准教授)

可能性大の鉄道サブスク

鉄道スペキュラティブ・デザインで今後、大きな可能性を持つのが、本サイトでも取り上げたばかりの鉄道サブスクリプション。サブスクの定額制デジタルフリーパスは、スマートフォンで①チケットを選ぶ、②クレジットカード情報などを入力して購入する、③乗車時に画面を読み取り機にかざす(駅員などに見せる)――のスリーステップで、乗車手続きが完了します。

西山准教授が、鉄道サブスクの好例としたのが、JR東日本、東急、伊豆急行の3社が協業で取り組んだ「Izuko(イズコ)」。3社は2020年11月から2021年3月まで、静岡県伊豆エリアを対象に、3段階に分けて観光型MaaS「Izuko(イズコ)」の実証実験を実施しました。Izukoは、オンデマンド交通など、さまざまな公共交通機関や観光施設、観光体験をスマホで検索・予約・決済できるサービスです。

私自身、サイトでMaaSやサブスクの記事を頻繁に書かせていただいていますが、西山准教授の講演を聞いて、それらがスペキュラティブ・デザインという一つの考え方でつながっていることが理解できました。

文/写真:上里夏生

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