【新宿ゴールデン街交友録 裏50年史】この街が作った映画「竜馬暗殺」中村半次郎役で松田優作を斬った!

「竜馬暗殺」の現場でかつら合わせをする外波山文明(撮影・提供=佐々木美智子氏)

映画「竜馬暗殺」(ATG、黒木和雄監督)は“ゴールデン街が作った映画”と云ってもいい程、この街が関わっていた。何しろ役者、スタッフがほとんどこの街で飲み歩いていた仲間だった。1974年公開だがその時代を色濃く反映した仕上がりとなっている。時は幕末の青春群像劇だが、70年の政治の季節の挫折感や、無名戦士の生と死など若者の死生観が強烈だ。

プロデューサーで後に原田芳雄のマネージャーとなった富田幹雄(ペンネーム夏文彦)の「映画・挑発と遊撃」の製作日誌に経過が詳しく書かれている。もう一人のプロデューサーは前回で書いたイラストレーターの黒田征太郎だ(ポスターも彼のイラスト)。兎に角、その頃は毎晩ゴールデン街をうろつき回り、誰かれなしに喧嘩売ったり、仲良くなったり“兄弟”となったりの日々の連続。

役者の原田芳雄、石橋蓮司は勿論、黒木監督、カメラマンの田村正毅、スチールカメラの佐々木美智子(本編は浅井慎平)…知り合いばっか。あっ私も人斬り半次郎役で出演。劇中では松田優作を斬ってますぞ!(笑)。

その京都の撮影ロケ途中で軍資金が底をつき、明日の飯代(妙顕寺で合宿)もままならぬ状態で、富田が新幹線で上京。ゴールデン街の“まえだ”に泣きを入れたら、おっかさん黙って80万円ポンと貸してくれ、他の店にも頭を下げ都合3軒で150万集めたとか。その頃、俺は合宿所の女優の部屋で朝迄寝てたのが見つかり、大目玉を喰らっていた! それも青春のひとページさ。

山谷初男が岩倉具視、田村亮が大久保利通、俺が中村半次郎。その会談のシーン撮りながら「俺たちがこんな歴史上の人物演じていていいのかね?」と話したのを鮮烈に憶えている。

ある日、蓮司、優作、私が撮影を終えタクシーで寺に帰還。そしたら女高生2人がそのタクシーを追っかけて来て「優作さん、サイン下さい!」と色紙を出した。蓮司にも。そうしたら蓮司が「トバもサインしたら?」。その女高生、怪訝な顔をして鞄からノート取り出し、これに!と(そりゃそうだろう、俺なんて誰も知らないんだから)。勿論、私もサインしたさ。…でも女高生そのサインをその後どうしただろうか? 行方を知りたい(笑)。(敬称略)

◆外波山文明(とばやま・ぶんめい)1947年1月11日生まれ。役者として演劇、テレビ、映画、CMなどで活躍。劇団椿組主宰。新宿ゴールデン街商店街振興組合組合長。バー「クラクラ」オーナー。椿組花園神社野外劇「貫く閃光、彼方へ」7月7~20日上演。

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