<社説>クラスター公表遅れ 情報公開の認識が欠如

 玉城デニー知事は4日、臨時記者会見を開き、うるま市の県立中部病院で死者17人を出した新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)の公表遅れを陳謝した。 県は公表遅れの理由としてコミュニケーション不足を挙げているが、根本的な問題は別にある。新型コロナウイルスのまん延防止のため、情報の積極的公開を求める基本方針を国が示しているにもかかわらず、県にその認識が欠けていた点だ。

 早急に県立病院と庁内各部局間の情報共有の在り方と報道機関への公表の仕方を見直し、県民の命を守る体制を強化してもらいたい。

 県立中部病院で5月下旬に、新型コロナウイルスのクラスターが発生し、患者36人、職員14人の計50人が感染。患者17人が亡くなった。

 中部病院によると、感染者がクラスター基準の5人を超えた5月31日と、院内の感染者が急増した6月7日、記者会見して公表することを県に打診。県の了解を得て11日に会見を開く予定だったが、10日に県から届いたメールを読んで中止を決めたという。

 県は「公表する基準がない」ことを病院側に説明したが、会見中止を指示していないと病院側の主張を否定した。病院事業局長は「コミュニケーションの齟齬(そご)」を繰り返す。だが県民には一連の過程が分かりづらい。

 県が病院に送ったメールには「公表する基準がない」とは書いていない。病院事業局幹部の見解として「新たな公表基準を作成する意義はなく」と伝えているのだ。県が公表基準を示さないため、病院側は会見を見送らざるを得なかったのではないか。コミュニケーション不足だけでは片付けられない。

 厚生労働省は昨年2月、新型コロナウイルス感染が発生した際の、情報公開の基本方針を都道府県に示している。基本方針は「感染症の発生状況等に関する情報を積極的に公表する必要がある」としている。この方針を参考にして適切な情報公開を都道府県に求めている。

 国の基本方針に照らせば、中部病院のクラスター情報は「積極的に情報公開」する事案に当たるだろう。公表の際に国は「感染者などに不当な差別および偏見が生じないように個人情報保護に留意すること」も求めている。

 国の方針から1年以上たっても県が積極的に情報を公表しないことが問題なのである。情報を発信する目的は、あくまでも新型コロナの感染を拡大させないように、県民一人一人に適切な行動を促すことにある。

 新型コロナウイルス対策によって、医療従事者の過重負担が続いている。激務に追われるスタッフの姿は頭が下がる思いである。対策のため県や市町村の貯金「財政調整基金」も激減した。県民一人一人ができることを着実にこなし感染を封じ込めたい。

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