【高校野球】松井、落合… 指導者転身の元巨人ドラ1が「化け物たち」に見た練習への“こだわり”

東海大静岡翔洋・原俊介監督【写真:間淳】

芽が出なかったプロ時代、今だから生きる当時の経験

静岡市にある東海大静岡翔洋の原俊介監督は、巨人でプレーした元プロ野球選手だ。当時は各チームの4番クラスが集まった超強力打線。出場機会には恵まれなかったが、超一流選手とプレーした経験や、かけられた言葉は高校野球の指導者になった今、財産となっている。

「化け物、次元の違う人たちを間近に見てきた。その人たちがどれだけ練習するか、いかに頭を使っているか、プロ意識にも驚かされた。最高峰の野球を肌で感じることができたのは何よりも大きな経験ですね」

東海大静岡翔洋を2016年から指揮する原俊介監督は2006年まで11年間、巨人に所属し、主に捕手としてプレーした。当時は、各球団で主軸を務める力のある打者が顔を並べた。松井秀喜氏をはじめ、落合博満氏や清原和博氏、高橋由伸氏や二岡智宏氏に阿部慎之助氏。外国人選手もマックやマルティネス、ローズにペタジーニと、ライバル球団からはため息が漏れるようなメンバー。「ミレニアム打線」と呼ばれたのも、この頃だ。さらに、川相昌弘氏、元木大介氏、鈴木尚広氏のような職人もそろっていた。

1995年のドラフト1位で巨人に入団した原監督は、早くから強肩強打の捕手として2軍で結果を出していた。ただ、選手層が厚く1軍に呼ばれる機会に恵まれなかった。プロ通算68試合で打率.224、本塁打3、打点10の成績でユニホームを脱いだ。プロの世界では成功したとは言えないかもしれない。ただ、代えがたい経験は、第2の野球人生に活きている。

今も守る清水隆行氏の教え「練習せずに結果は出せない」

グラウンドに太い声が響く。

「打撃練習1時間。1人1000スイング」

「妥協するな」

原監督は練習の量にも質にもこだわる。結果を出すためには練習が絶対条件と自らの経験で知っているからだ。現役時代、松井秀喜氏の体つきに「ものが違う」と驚いた。体に恵まれアドバンテージがあるはずの松井氏は、誰よりもバットを振っていた。

落合博満氏は打撃練習で緩いボールばかり打つ。3冠王に3度も輝いた大打者でも、自分にベストな練習を考え抜いていると知った。今、選手たちに寮の中で靴下を履くように指導しているのは、一流のプロ野球選手が体のケアを怠らなかったのを目にしてきたからだ。体温調整に加えて、足の裏をケガするとパフォーマンスが一気に下がる。

原監督には忘れられない言葉がある。毎年のように強打者が加入する中で長年主力を担い、2002年にはシーズン191安打でタイトルを手にした清水隆行氏からの一言だった。「練習をやっても結果が出ないかもしれない。でも、練習をしなかったら結果は出ない」。原監督は1軍で活躍し続ける理由を理解した。

プロと高校生を同じ土俵で比べることはできないのは分かっている。それでも、共通項はある。「練習して結果が出ないのは虚しいが、練習せずに結果は出せない。効率よくうまく練習できるに越したことはないが、無駄な練習はないと思っている。練習したことが履歴となって、上達につながっていく」。高校野球の監督となり、自身の体験を選手に伝えている。

元木、鈴木…職人から学んだ考え方、自らの驚きを選手にも

巨人でチームメートだった職人からは、野球の考え方を勉強した。「くせ者」と呼ばれた元木大介氏は投手のクセを見抜く能力に長けていた。原監督は「違いが全然分かりません」とベンチで元木氏の隣に座り、解説を聞いた。

「足のスペシャリスト」だった鈴木尚広氏は後輩だったが「説明してくれないか」と教えを求めた。鈴木氏は早めに球場に入って、相手投手の牽制をビデオで見ていたという。背番号の見え方やユニホームのしわ、足の幅や肩のライン、その違いを1つ1つ説明してもらった。高いレベルで野球をする頭の使い方を学ぶと同時に、なぜ2人が1軍に居続けられるのかも悟った。

原監督は「高校生の投手なら1イニング投球を見れば、だいたいストレートか変化球か分かる」と話す。相手走者が盗塁のスタートを切るかどうかも分かるという。そうした情報は選手によっては逆効果になることもあると考え、伝える内容を取捨選択しているが、指導や戦術の上で「大切な選択肢になっている」と感じている。繰り返し伝えることで、違いに気付くようになる選手もいる。最初は何も見えなかった自分自身が、元木氏や鈴木氏の話を聞いて見え方が変わった現役時代のように。

プロ野球の経験が全て、高校野球の監督として生かせるわけではない。しかし、「化け物たち」を間近に見た経験は、指導者としての引き出しになっている。(間淳 / Jun Aida)

© 株式会社Creative2