驚きのウイングレス。プジョー9X8ハイパーカーには「必要ない」と技術代表/WEC

 7月6日、プジョーが2022年のWEC世界耐久選手権に投入するル・マン・ハイパーカー、『プジョー9X8ハイパーカー』を発表した。ハイブリッド・パワートレインを搭載し、トヨタGR010ハイブリッドと同様に一定速度域内で前輪駆動となるこのマシンは、リヤウイングを装備しない、近年のスポーツカーでは“前例のない”スタイリングが与えられた。

 車両開発段階においてプジョー・スポールとともに製作に関わったプジョー・デザインのマティアス・ホッサンによれば、『9X8ハイパーカー』をデザインする上で指針となったのは、今にも飛びかかろうとする大きな猫を描いたものだったという。

 ホッサンはこれを「わずかに前傾したコクピットで表現した」と言い、「全体的なラインは、ブランドのステイリングキューを表現し、滑らかでレーシー、エレガントなフォルムは感情とダイナミズムを刺激する」と続けた。

■ウイングレスの可能性はエンジニアリングチームの研究で発見

 9X8ハイパーカーの独特なデザインの核、それはリヤウイングを取り除いたことに他ならない。6日に発表された新型マシンのリヤエンドにはプジョーブランドを象徴する“クロ―・エフェクト・ライティング”が奢られ、これは「We didn’t want a rear wing」と書かれたワイド・リヤディフューザーの側面に位置する。

 プジョー・スポールのエンジニアリングチームは、1967年のル・マン24時間に参戦した『シャパラル2F』が採用したことで広く普及したリヤウイングの存在を疑問視。9X8ハイパーカーの革新的なリヤスタイルは、彼らのこの研究から誕生したものだという。

 プジョー・スポールのWECプログラム・テクニカル・ディレクターを務めるオリビエ・ジャンソニは、「9X8の設計は情熱が注がれた」と述べた。

「なぜなら、我々にはクルマのパフォーマンス、とくにエアロダイナミクスを最適化するために、これまで考えられてきた壁を越えた方法を発明、革新、探索する自由があったからだ」と同氏。

「ル・マン・ハイパーカー(LMH)のレギュレーションでは、調整可能な空力デバイスをひとつだけ用いることが許可されているが、それはなにもリヤウイングに限定されていない。私たちの計算とシミュレーションでは、ウイングがなくても効果的に高いパフォーマンスが得られることが明らかになった」

 プジョーを傘下に収めるステランティスのモータスポーツ・ディレクターであるジーン-マルク・フィノットは、「プジョー9X8ハイパーカーにリヤウイングが搭載されないことは、革新的な大きな一歩だ」と付け加えた。

「我々はこの機能を取り除くことを可能にするほどの空力効率を達成した」

「しかし、『どのようにして?』とは聞かないでほしい。私たちは可能な限りそれを秘密にしておきたいと思っているんだ!」

ウイングを取り除いたリヤデザインが採用されたプジョー9X8ハイパーカー

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