「接種で感染」ワクチン“陰謀論”はこうして生まれる 二階の〝チョイ足し〟で検証

陰謀論に登場する自民党・二階幹事長

政府は7日、東京都に新型コロナウイルス緊急事態宣言を再び発令する方針を固めた。感染の再拡大を受けた対応で、11日が期限のまん延防止等重点措置から移行し、8月22日が期限となる。想定外の感染者増に追い込まれた形で、「ワクチン接種の加速化で、感染の伸びを相殺できる」(政府高官)との甘い見立ては消し飛んだ。ゲームチェンジャーとなるはずだったワクチンをめぐり、会員制交流サイト(SNS)などで「接種で感染する」「遺伝子が操作される」といったウワサが絶えない。常識的に考えれば根拠のないものばかりだが…。

ワクチンには生ワクチンや不活化ワクチンといったものがあるが、日本で現在、新型コロナに対して使用されている米ファイザー社やモデルナ社製のワクチンは、メッセンジャー(m)RNAという人工の遺伝物質を使ったものだ。

その目新しさが影響しているのか、SNS上では「接種で感染する」といった情報が広まっているが、米疾病対策センター(CDC)は「両ワクチンに生のウイルスは含まれておらず感染の心配はない」と完全否定。

同じくSNSでの「遺伝子が操作される」という情報に対しても、CDCは「mRNAは人間の遺伝子を収めた細胞の核に入ることができないため、もとの遺伝子は変わらない」と否定する。

ほかにも「接種した腕にスプーンがくっつく」「マイクロチップを埋め込まれる」といったものから、「流産や不妊が増える」「ビル・ゲイツらフリーメーソンが仕掛けたんか?」という不安をあおる言説まで飛び交っており、保健当局は正しい情報の提供に必死だ。

ワクチンへの流言飛語について、ITジャーナリストの井上トシユキ氏は、ウワサが乱れ飛ぶ背景について「まず中国製のワクチンが出てきて、日本の富裕層や一部の政治家が打ったという半分デマみたいな話があった。そこへウイルスから取り出した一部を人体に入れることで抵抗できるようにするというmRNAワクチンが出てきた。なかなか理解できないものである上に、漫画や映画にありそうな話だから、これがネタとして楽しまれていた陰謀論と結びついた。それを真に受ける人も出てきて、何を言えば面白いかという大喜利状況になっている」と指摘する。

井上氏によると、ネット上の陰謀論は、どこまで面白がれるかの競争になると、無駄な部分がそぎ落とされて精巧な筋書きができてくるといい、後から乗ってきた人は「そうなんだ」と思わされてしまうのだという。

「例えば、日本はワクチン接種で他国に後れを取りましたよね。そこへ自民党は“親中派”の二階さんに牛耳られているという陰謀論が加わると、妙に信ぴょう性のある面白い話になります。ネットのイタズラ心の上に、こうした保守層と左翼層のようなところのネット上のせめぎ合いが加わって、ワクチンの件が利用されている側面があります。さらにコロナ禍なのでネット上で憂さ晴らししている人もいる」

こうした背景から、当局が火消しに躍起になっても、次から次へと“ネタ”が投下されてしまっているわけだが、井上氏は自分の身を守るには、やはりネットリテラシーをつけるしかないという。一方で、日本人は9年間の義務教育で、その能力がきちんと養われているはずだともいう。

「ネット上に流布される情報は玉石混交。特にSNSに流布される情報は本当かウソかも確認しづらいし、基本的スタンスは『マスゴミ』で、マスコミは本当のことを書かないとされています。しかし、ネットの中にはきちんとワクチンのことを発信している医者はたくさんいる。何が本当なのかを納得がいくまで調べる。どれだけの立場の人が何を言っているのかというのは日本の義務教育を受けていたらできるはずです。『他の人はどう言っているんだろう』というのを自分で調べて判断する癖をつけてほしいですね」

ワクチンを打つ自由も打たない自由もあるが、しっかり情報を精査した上で判断してほしい。

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