軽視されがちな海洋生態系保全 水産加工品メーカー「バンブル・ビー」の挑戦とは

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海を取り巻く深刻な環境課題を解決するためには、より多くの企業が直接投資し、リストレーション(修復)、リジェネレーション(再生)、そして、リハビリテーション(復興)に取り組む必要がある。ツナ缶詰やサーモン缶詰などの水産加工食品を手がける米国企業「バンブル・ビー(Bumble bee)」は、カリフォルニアに拠点を置くNPO「サステナブル・サーフ(Sustainable Surf)」が手がけるプログラム「シーツリーズ(SeaTrees)」とパートナーシップを結んだ。異なる二者が手を取り合い、プロジェクトを進めていく今回のビジネスモデルは、これからの時代に必要とされる企業とNPOのパートナーシップの良い事例となるだろう。(井上美羽)

水産缶詰などの加工食品を手がける「バンブル・ビー」と「シーツリーズ」の新たなパートナーシップ連携は、科学的なデータを用いながら海の資源を再生させるための取り組みを2カ国でスタートさせる。

本パートナーシップは沿岸や海洋の生態系を保全する活動に企業が直接関わり、支援ができるロールモデルを作ることを目指している。

「海は気候変動を逆転させ得る非常に大きな力を秘めています。しかしその力を発揮させるためには、藻場などのブルー・カーボン(沿岸や海洋に吸収・固定されている二酸化炭素)生態系を守り、回復させながら取り組んでいくことが重要です」と、シーツリーズの共同創設者であるマイケル・スチュワート氏は語る。

シーツリーズとバンブル・ビーは共に、重要な穴を埋めることを目指している。健全な海は、地球の気候を一定に保ち、数億ものタンパク質の源泉であり、豊かな生物多様性の保管場所であるにもかかわらず、長い間その価値を無視されてきた。人工物によってもたらされる害や、持続可能ではないやり方での海の資源の搾取は、数百万トンもの海洋プラスチックの放出、サンゴ礁や海藻を含む生態系の破壊の起因となり、増加する人口を養うための漁業は海への負担をかけ続けている。

海はSDGsの中でも最も投資の少ない分野

それにもかかわらず、海の保全に対する基金は不足している。国連の持続可能な開発目標の14番目「海の豊かさを守ろう」においては、最も少ない予算しか充てられておらず、政府やNGO、そしてほとんどの企業からもその重要性を見過ごされている状態なのだ。

「現在の経済において、お金を持っている組織は営利企業です。つまり、企業がカギとなるのです。シーツリーズは、企業が直接海の保全のために投資支援ができるプラットフォームとなっています」とスチュワート氏は語る。

バンブル・ビーが昨年、水産物の持続可能性への取り組みの先頭を切り、革新的な活動を推進すると声を上げた時、かなりの反響があった。ここでは、「漁業を保護すること」「混獲やプラスチック汚染を減らすこと」「公正な労働環境の実践やコミュニティプログラムを通じてサプライチェーン上の全ての労働者の保護を保証すること」といった3つの指針が掲げられていた。そして、宣言を出すということは、次のステップとしてこの宣言を有意義な行動に移すということでもあった。

「世界中の組織や企業が海洋を回復するために行っている取り組みについてヒアリングし、理解を深めていく中で、海洋資源や状況についてさらに調査を進める必要性を認識しました」と、バンブル・ビーのコーポレート戦略・コミュニケーション担当兼バイスプレジデントであるレニー・ユング氏は話す。「そしてわれわれが調査を進めるにつれ、海は驚くべき回復力をもつ一方で、これらのプロセスを共に遂行していく仲間が必要だと気づきました」。

バンブル・ビーとシーツリーズが協働することとなったきっかけは、双方が属していた米サステナブル・ブランドのコミュニティだった。シーツリーズ代表のスチュワート氏は、バンブル・ビーの計画そのものだけでなく、組織全体が海洋再生に対し、どのように向き合い、何に取り組もうとしているかというその手法に感銘を受けたのだという。

スチュワート氏は、「連絡してすぐに、なんとCEOのジャン・サープ氏から返事をいただけたのです。これは本当に稀なことです。サープ氏は、すぐに私たちに会い、プロジェクトの実施場所を見る時間をつくりたいと言ってくれました。これはつまり、パートナーシップを結ぶということです」と振り返る。

一般的な森林の倍以上の二酸化炭素を吸収し固定するといわれるマングローブ (Timothy K)

[^undefined]シーツリーズは地域団体と協力して昆布を活性化させたり、マングローブの森林を再生させたりすることで、炭素隔離をし、漁業を回復しながら損傷した生態系の再建に取り組んでいる。そしてまずは、南カリフォルニアとインドネシアの2カ所で行なっているシーツリーズのプロジェクトにバンブル・ビーが支援する。

南カリフォルニアの昆布の生態系再生プロジェクトの中でも特に重要な側面の一つは、炭素を固定する技術力、そしてその他の生態系に与える影響を評価する科学者が関わっているということだ。現時点でこの研究データはまだ存在しないが、将来のプロジェクトのための情報として提供することができる。また、昆布の森の再生が世界の炭素市場を支援することも今後可能になるだろう。

「もし本プロジェクトを行わず、バンブル・ビーのようなパートナーを呼び込んでいなければ、ベイ財団といった科学者たちが環境インパクトを測定し、それを文書化することはなかったでしょうし、昆布の森の修復が西海岸の他の場所にまで規模を拡大するための効果的な戦略を立てることもなかったでしょう」と、スチュワート氏は話す。

バンブル・ビーにとって、これは始まりに過ぎない。将来の世代のために、海洋の健全性を守り、世界の漁業が繁栄するように、さらなる挑戦を続ける予定だという。

「海洋資源の再生を支援するという私たちの責任は、今年開始した2つのシーツリーズのプロジェクトだけにとどまりません」とユング氏は言う。「環境を回復するために、新たなプロジェクトを各分野における主要団体、NGO、学界、その他の機関とパートナーシップを結ぶことも視野に入れています」。

海の課題に対応するためには、より多くの企業が直接投資することが求められる。そして、企業を巻き込みながら、リストレーション(修復)、リジェネレーション(再生)、リハビリテーション(復興)に共に取り組んでいく必要がある。バンブル・ビーとシーツリーズとのパートナーシップは、そうした協働モデルの良い事例であり、より多くの企業や団体がこうしたモデルを真似することが期待される。

# The Next Economy

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この記事の原文は www.sustainablebrands.com に掲載されています。

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