GT天王山先勝! 阪神・矢野監督があえて秋山〝中4日〟で使った深いワケ

期待に応えて力投した秋山

首位攻防先勝! 阪神が9日の巨人戦(甲子園)に4―1で快勝した。前半戦最大のヤマ場となった今3連戦で初戦白星の立役者となったのが、G打線を7回途中最少失点で7勝目を挙げた秋山拓巳投手(30)だ。矢野監督は右腕を今季初めて中4日で起用。約1か月間「勝ち」のない現状をあえて利用し「もう後がない」ことを本人に自覚させた〝ドS采配〟で、大事な初戦をモノにした。

2・5ゲーム差で迎えた巨人との首位攻防初戦。巨人先発・戸郷に対し、打線は序盤3回に敵失に乗じて2点を先制すると、6回にはマルテが2試合連続の16号弾。投げては直近3試合で勝ち星のなかった先発・秋山が気迫あふれる投球で、7回途中まで6安打1失点。最後は無死二、三塁のピンチを背負ったが〝天〟も味方した。

豪雨により試合は降雨コールドで終了し、6月9日以来、1か月ぶりの勝利を今季初完投で飾った。秋山で大事な初戦を制した矢野監督は「素晴らしい投球でした。何よりも気持ちが(打者に)向かっていっていた」とベタ褒めした一方で〝試練〟とも言える状況を意図的に作ったのも、他ならぬ矢野監督だった。

ローテーション通りなら本来はこの日はエース・西勇の先発日。だが、それまでは週末の日曜日の先発で回っていた秋山とチェンジ。大一番に中4日での出撃を指令した。

狙いは秋山へのゲキだ。事情に詳しい関係者によると、伏線となったのが前回の2日の広島戦。今季3勝の〝お得意さま〟相手に秋山の投球はピリッとせず。味方打線が森下から先制し、さらに中押し点を奪って3点をリードしたにもかかわらず、直後に2失点。この投球に、指揮官の堪忍袋の緒は切れる寸前だったという。

結局、秋山は直後の4回の攻撃で代打を出されて降板。まだ勝利投手の権利もあったなかでの、指揮官の強権発動だった。結果的に試合も敗れ、決勝打を浴びた投手キャプテンの岩貞はその後、二軍に降格。矢野監督が今季初めて選手に入れた〝ムチ〟とも言える判断の起点は「秋山」だったのだ。

そんなこともあり、矢野監督は試合前から「(前回)俺に代えられた悔しさを見せてほしい」と話し、首位攻防の最もプレッシャーのかかる初戦での〝汚名返上〟を課した。それだけに秋山も試合後「意地を見せたかった。少しは意地を見せられたかな」と先発ローテはく奪の危機を乗り切り、ホッとした様子だった。

すでにシーズン半分以上の試合を消化した。ここまでの実績を〝考慮〟に入れる時期はもう終わり。全ナインへの無言のメッセージを込めた用意周到なタクトで、矢野監督が前半戦の天王山初戦を勝ち取った。

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