【高校野球】プロ注目の153キロ右腕が挑む最後の夏 “未踏”の聖地へ「圧倒できる試合を」

ノースアジア大明桜・風間球打【写真:荒川祐史】

ノースアジア大明桜の風間球打は1年春から公式戦に登板

第103回全国高校野球秋田大会が9日に開幕した。春の県大会で優勝し、第1シードのノースアジア大明桜は11日に能代との初戦を迎える。最速153キロ右腕・風間球打投手(3年)を擁し、2017年夏以来の甲子園出場を目指す。

「秋田では圧倒できる試合をしたいです。全国には強いチームがいっぱいいる。秋田でギリギリの試合をしていては全国で勝てない。まずは秋田で自信を持って勝てるようにやっていきたいと思っています」

明桜のエース・風間の視線は甲子園に向いている。中学3年の夏、日本中を沸かせたのが秋田県代表の金足農だった。吉田輝星投手(現日本ハム)を擁し、甲子園で準優勝。県立の農業高校の快進撃は大フィーバーを巻き起こした。山梨県で育った風間は明桜への進学がほぼ決まっており、「自分も吉田選手みたいになりたい。そして、越したい」と密かに気持ちを作っていた。

実際に甲子園の光景を目に焼き付けてから秋田にやってきた。高校入学直前の2019年選抜高校野球大会に初出場した啓新(福井)の主将、穴水芳喜捕手(現帝京大)が親戚。甲子園へ応援に行き、「ここで投げたい」とモチベーションを高めた。夏の甲子園を見たのは中学1年の時。友人の父親が大曲工(秋田)出身で、大曲工対花咲徳栄の試合を観戦した。「暑かったので、ここで投げるとすごくきついだろうなと思いました」と回想する。

高校では1年春の地区大会、東北大会と早くから公式戦のマウンドを経験。最速135キロから、今春マークした153キロまで球速を上げ、スライダー、カーブ、フォークと変化球も磨き、ドラフト1位候補へと成長してきた。だが、甲子園のマウンドは未踏だ。1年夏は決勝で秋田中央に敗戦。同年秋は東北大会初戦で仙台育英に延長11回、8-9で敗れた。2年夏は県独自大会で優勝したものの、甲子園が中止。昨秋は県大会初戦で大館桂桜にサヨナラ負けを喫した。

ノースアジア大明桜・輿石重弘監督【写真:荒川祐史】

輿石監督「スタミナ面の心配もなくなりました」

その試合、風間は0-2の3回途中から3番手で登板した。9回まで安打を許さない投球で相手を寄せ付けなかった。4回には風間がソロ本塁打を放ち、5回に同点としたが、その後はホームが遠い。そして、無死一、二塁からはじまるタイブレークの延長13回。三振2つで2死としたが、右打者に甘く入ったスライダーを右前に運ばれた。二塁走者が生還し、2-3。短い秋だった。

冬場、チームは打力強化に着手。フリー打撃を3か所から5か所に増やし、時間も費やして打ち込んできた。春にはその成果が徐々に顔を出した。投手陣も風間だけに頼らない。遊撃を守る石田一斗(3年)も台頭し、右の山本隆世、左の栗城蓮らも控える。捕手の中井稜貴主将(3年)は「ピッチャーは球打だけじゃない。誰が投げても勝てるので、打撃陣が点を取っていきたい」と気合いを入れる。5番を打つ風間も「攻撃はみんなに任せたい」と信頼を置く。

秋の公式戦は地区大会2試合を含め、わずか3試合だったが、春は東北大会の中止、県大会の延期もありながら、最大8試合を負けずに戦い抜いた。輿石重弘監督は「強くなるためには、経験に勝るものはないと思っています。春に公式戦を8試合できたというのは大きい。また、その8試合を勝てたというのは大きな自信になる」と手応えを口にする。風間についても「スタミナ面の心配もなくなりましたし、いろんな変化球も投げられるようになった。スカウトの方がたくさん見にきている中でも安定した結果を出せるというのは大したもの」と目を細める。

ロッテ・山口航輝外野手が2年生で主力だった2017年、明桜は8年ぶりに聖地への扉を開いた。その年の4月に就任したのが輿石監督。メンタルトレーニングでチームに明るさをもたらし、1試合、1試合を決勝だと思って臨むことを意味する「一戦決勝」を合言葉につかんだ栄冠だった。その「一戦決勝」に加え、この夏は「圧倒して勝つ」の意識も植え付ける。「力は持っているので、期待しているよ、という意味です」と輿石監督。秋の県大会初戦敗退から春は県大会優勝と、チームは投打にたくましくなっている。

ブロックには実力校がひしめくが、どこが相手でも力を出し切ることに変わりはない。「夏も自分一人で戦うわけではありません。チーム全体で圧倒できるようにしていこう、とみんなで話しています」と風間。仲間とともに秋田、そして全国の頂点を目指すドラマを描いていく。(高橋昌江 / Masae Takahashi)

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