巨人浮上の立役者 岡本和が“迷走期”に起こした「禁断バット拝借事件」とは

8回、適時打放った大城を出迎える岡本和(右)

首位奪回は目の前だ。巨人は11日の阪神戦(甲子園)を1―0で制し、最大8ゲーム差をついに1・5差まで縮めた。何度も故障禍に見舞われながらリーグ2位をキープできている要因は、不動の4番打者・岡本和真内野手(24)の存在なくして語れない。今や26本塁打、76打点で堂々の打撃2冠に君臨。ただ、そんな主砲にも不可解行動連発の〝迷走期〟があった。

前半戦最後の首位対決を2勝1敗で競り勝った。この日は0―0の8回に飛び出した大城の左前適時打が決勝点。虎の子の1点を、7回1安打に封じてリーグ単独トップ9勝目をマークした先発・高橋、大江、ビエイラが無失点でつないだ。息詰まる投手戦を制し、原監督も「初戦に敗れながらも(残りの2戦を)取れたというのは非常に大きいと思います」と、してやったりだった。

前半戦は2試合を残すが、とにかく戦力が整わない戦いだった。開幕早々に新型コロナ陽性で主力4選手が離脱し、故障者も続出。坂本、吉川が骨折で戦列を離れ、10日には死球を受けた梶谷も右手骨折で長期離脱が確実となった。電撃退団したスモークら新助っ人は2人とも不在で、昨オフに加入した4選手は一軍から全員姿を消した。

誤算だらけの中でも一度も離脱することなく唯一、全83試合でスタメン出場を続けているのが主砲・岡本和だ。どんなにメンバーが入れ替わっても、4番の大黒柱が健在だったことはこの上ない安心材料だった。

その岡本和も順風満帆だったわけではない。ひと振りで試合の流れを変える一発を期待されながら、開幕から4月11日の広島戦(マツダ)まで55打席ノーアーチ。調子は一進一退を繰り返し、気分転換なのか試行錯誤なのか、あの手この手、日替わりで変化を求め続けた。

当時の岡本和は、試合前練習のティー打撃でスイッチヒッターばりに右打ちだけでなく左打ちにも挑戦。時には、なぜかフェースガードつきの投手用のヘルメットをかぶって練習してみたり、窒息しかねないマスク姿で三塁ノックを受けてみたり…。

そして、極みつけは4月下旬の〝禁断バット〟の拝借だ。東京ドームのベンチ前に立てかけられたノックバットで珍しく素振りを始めた。岡本和にとっては、数本並べられた1本を無意識に手にしたに違いないが、そのバットは実は「83」が刻印された原監督のものだった。元祖・若大将から現・若大将に魂が乗り移った…かは定かでないが、5月と6月はそれぞれ月間9本塁打と輝きを取り戻した。

そんな試行錯誤の連続だった主砲の〝怪行動〟を、当時の球団関係者は「何をしているんだろう…」と苦笑いながら見守っていたが「放っておけばいい。和真なら自分の力で何とかする。それだけの選手だから」と信頼が揺らぐことはなかった。

「一試合、一試合。一打席、一打席に集中して頑張りたい」と謙虚な言葉を繰り返す岡本和。一時は首位独走を許した猛虎は完全に射程圏だ。

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