阪神・矢野監督 “劇勝” 涙の重み サイン盗み騒動、G戦負け越しで立ち込めていた「暗雲」 

サヨナラ打の大山(中)を〝水責め〟で祝福する阪神ナイン

16年ぶりリーグ優勝へターニングポイントとなる劇的1勝だ。阪神は12日のDeNA戦(甲子園)を4―3で競り勝った。だが単なる1勝ではない。0―3の9回二死から怒涛の5連打で逆転する、甲子園で今季初のサヨナラ勝利だ。チームは〝屈辱の1週間〟の重い空気を引きずりかけていたが、それを吹き飛ばすドデカい1勝を全員野球で勝ち取ってみせた。

9回二死で0―3。そこからの大逆転だった。敵の守護神・三嶋に対し〝ミラクル〟の口火を切ったのは、この日9試合ぶりにスタメン落ちした佐藤輝だ。二死一塁からシフトの逆を突く中前打で一、三塁と好機をつくると、そこから上位打線が〝束〟になった。

1番の選手会長・近本から糸原、マルテの3人が気迫で外野手への前へと落とす起死回生の3連続適時打で同点とし、まずは敗戦回避。さらに試合を決めたのが不振の4番・大山というのも劇的だった。一、三塁から初球を振り抜いた打球は中前へと抜け、三走の植田が本塁を駆け抜けると、場内の虎党は一斉に絶叫した。

試合後の矢野燿大監督(52)は、もう言葉にならなかった。目を真っ赤にしてインタビュールームに現れると「感動した…」と切り出し「苦しかったんですけど、一人ひとりが…ちょっと待って下さい」と涙をこらえるに必死。それだけ大きな1勝だった。

前週は前半戦最大の山場だった。ヤクルト、巨人続く上位対決6連戦。だが、先に行われた敵地ヤクルト3連戦では〝サイン盗み疑惑〟が勃発。その影響もあってか、続く首位攻防の巨人3連戦には1勝2敗で負け越した。さらには二軍のウエスタンで再び、中日から〝サイン盗み〟の因縁をつけられてしまった。

〝疑惑〟についてはもちろん、どちらも一貫して潔白を主張している。だが、首位に立つチームには動揺が出かねない状況だった。そこで首脳陣は一、二軍ともミーティングを開き「これまで通り堂々とプレーすることだけを考えろ」とナインを鼓舞。持ち味の積極プレーを改めて推奨し、ナインが試合で〝守り〟に入らないよう腐心した。

サヨナラ打の大山が「チーム全員の勝利」と振り返ったように、9回二死の崖っぷちから全員が単打でつないだ怒涛の5連打。〝屈辱の1週間〟から続く逆風をはね返すには、インパクト十分の勝利だった。

2位・巨人を2ゲーム差に突き放しただけにとどまらない、価値ある1勝。猛虎は悲願Vへのドラマの1ページを、今季82試合目でつくってみせた。

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