首位ターン阪神に過去3度「巨人を振り切れない」悪夢…問われる矢野監督の〝手腕〟

虎党は悪夢の再来を恐れている…

【楊枝秀基のワッショイ!スポーツ見聞録】時代も違えばメンバーも違う。それでも虎党の間で話題になるのは、2008年の悪夢の再来という怖い話だ。前半戦首位ターンを決めた阪神だが、2位巨人とはわずか2ゲーム差。楽観視ばかりしてもいられない。

08年ばかりがクローズアップされるが、実は阪神と巨人の間には怖いデータが残っている。過去の歴史で前半戦に阪神が首位、巨人が2位のパターンは3度あったが、タイガースが逃げ切ったパターンは一度もないのだ。

阪神の首位ターンは今回を含め9度。過去8度のうち3度は優勝しているのだが…。V逸した5度のうちの3度(1972、76、08年)は、巨人にまくられてリーグVをさらわれている。

巨人が首位で阪神が2位のまま逃げ切られたパターンは、昨季も含め16度もある。V9時代にはそのケースが5度。これは悔し過ぎる歴史だ。阪神の歴史で初めて、2位の巨人を振り切ってゴールできるのか。16年ぶりのリーグVプラス、積年の鬱憤を晴らすフィニッシュをするには何が必要だろうか。

08年の指揮を執った岡田彰布監督は、現在の矢野監督とはスタイルは違うが同様に選手思いの指揮官だった。口下手で、取材陣には名指しで選手に厳しく当たりもしたが、裏では敗因を選手に被せることはなかった。

08年、V逸危機となった10月のミーティングで、岡田監督が話した内容を当時のスタッフはこう振り返る。

「『これで負けたら俺が責任取るから。お前らは何も悪ない。俺が辞めても、お前らは今年で終わるんちゃうんやから。自分らの野球をやったらええんよ』という話があった。結果的に巨人に負けたけど、ナインは監督を辞めさせるわけにはいかないという空気になったよ」

さて、選手を信じるスタイルを貫いている矢野監督はどうだろう。当時の岡田監督の姿を選手として見てきた経験はどう生きるのか。対照的なほど発信力のある現指揮官は、後半戦の重圧がかかる時期にどんな言葉でナインを鼓舞するだろう。

独走からV逸アゲインとなるのか。初めて巨人とのデッドヒートで競り勝つのか。過去の歴史の呪縛から猛虎を解き放て。SNS時代全盛、虎党の厳しい声を吹き飛ばせるか。すべては後半戦の戦いぶりにかかっている。

☆ようじ・ひでき=1973年生まれ。神戸市出身。関西学院大卒。98年から「デイリースポーツ」で巨人、ヤクルト、西武、近鉄、阪神、オリックスと番記者を歴任。2013年からフリー。著書は「阪神タイガースのすべらない話」(フォレスト出版)。21年4月にユーチューブ「楊枝秀基のYO―チャンネル!」を開設。

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