侍ジャパン・稲葉監督にシドニー五輪代表・田中幸雄氏がエール「大事なのは“最低限の仕事”をすること」

シドニー五輪に出場した田中幸雄氏

いざ金メダルへ――。東京五輪の野球日本代表が19日から仙台で強化合宿(一般非公開)をスタートさせる。ただでさえ新型コロナ禍にあって制約が多い中、代表に内定していた選手が故障などで入れ替わるなど本番に向けて不安は少なくない。しかし、プロが初参加したシドニー五輪の代表で日本ハムのレジェンド、田中幸雄氏は「ここまで来たら目標に向かって突き進むだけ」と言い、ファイターズの後輩でもある侍ジャパンの稲葉篤紀監督(48)にエールを送った。

侍ジャパンの代表メンバーに内定した24選手が6月16日に発表されてから、これまでに捕手の会沢翼(広島)、投手では中川皓太、菅野智之(ともに巨人)の3選手が故障や不調などを理由に辞退した。また、中川の代役に指名された千賀滉大(ソフトバンク)が不調で二軍再調整になったことで、ファンの間から不安視する声が上がっている。今季の成績が今一つの選手もおり「これで大丈夫か」と言いたくなる気持ちも分からないではない。

しかし、誰を選んだところで結果が出れば称賛されるし、メダルを獲得できなければ叩かれるのが勝負の世界。それを承知の上で稲葉監督をはじめ、脇を固めるコーチ陣が視察を繰り返して選んだメンバーだ。自信をもって本番に臨むべきだし、目標に向かって突き進めばいい。

私も21年前のシドニー五輪に代表メンバーの一人として参加させていただいた。プロ選手が初めて参加した大会で、今回とは違った意味で難しいことが多かった。準備期間がほとんどなく、プロとアマの代表が一堂に会したのは現地入りしてから。前年に行われたシドニー五輪のアジア地区予選を兼ねたアジア選手権にもプロから8選手が出場していたが、そのまま五輪本番でも代表となったのは松坂大輔(西武)と松中信彦(ダイエー)の2人だけ。

加えてアマが選手村に滞在していたのに対してプロはホテル暮らし。顔を合わせるのは全体ミーティングや練習、試合のときだけだった。“ミスターアマ野球”杉浦正則投手や“ジョニー”黒木知宏(ロッテ)が積極的に雰囲気づくりをしてくれたが、結果的にメダルを逃したのだから一つになりきれていなかったのかもしれない。その点では巨人で主将を務める坂本勇人をはじめ、2019年のプレミア12で苦楽をともにした選手が多い今回のメンバーはコミュニケーションも取りやすいだろう。

やはり五輪の舞台は特別だ。シドニー大会の行われた00年9月は32歳でプロ15年目。たいがいのことは経験しているつもりだったが、五輪本番では足が震えた。人によっては緊張から嘔吐したりするとも聞く。そんな中で大事なのは、調子の良しあしに関係なく“最低限の仕事”をすることだと思う。

これが意外と難しい。そこそこの選手だと、調子が悪いとゴロを打とうと思ったらフライになってしまったり、バントを空振りしてしまうこともある。ただ、東京五輪の代表メンバーは精鋭中の精鋭だ。一発長打だけでなく、状況に応じて走者を進めるチーム打撃などもできると信じている。

現役時代に稲葉監督と一緒にプレーしたのは彼がFA移籍でファイターズに加入した05年から私が引退する07年までの3シーズンだけだった。年齢もポジションも違い、お互いに遠慮もあったのか、親しく食事に行ったりという関係ではなかった。しかし、野村ヤクルトで学んできた野球の深さには感心させられることが多かった。チームが勝つために何をすべきか打席の中で実践してきた姿勢は、指揮官としても発揮してくれるはずだ。(シドニー五輪代表、元日本ハム内野手)

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