障害者アートの魅力語る/宮崎市 美術家・中津川浩章さん講演(要旨) 国文祭・芸文祭 みやざき2020+1

表現自体が生き方反映

 なかつがわ・ひろあき 1958年静岡県生まれ。和光大芸術学科卒。アートディレクターとして福祉施設のアート活動全体のディレクション、展覧会のキュレーションなど手掛ける。表現活動研究所ラスコー代表、エイブル・アート・ジャパン理事

 障害者のアートに長年携わる、美術家の中津川浩章さん(62)=神奈川県小田原市=が「障がい者の芸術表現の魅力と可能性」と題した講演を宮崎市の県立美術館で2日行った。「国文祭・芸文祭みやざき2020」の一環として、11日まで同館で開かれている「全国障がい者アート作品展」の審査員を務めた中津川さんが、障害者アートの在り方や方向性について解説した。当日の講演要旨を紹介する。

 障害者アートという芸術ジャンルは実はない。社会学的な、行政的な区分としてあるだけだ。国内で障害者アートと呼ばれるのは、正規の美術教育を受けたことがない人のアート「アール・ブリュット」と似た意味で使われることが多い。

 アートの本質には、人が抱える痛みや欠損があり、満たされない思いが絵や文学となる。誰しもが抱えており、健常者も障害者もグラデーションでつながっている。

 では何が障害者のアートを魅力的にしているのか。障害者にとって、アートは自分の考えを伝えるツール。深い苦悩が集中力となり作品に向かう。それは健常者とは比べものにならないものだ。また、障害特性の感覚過敏などもある。表現自体がその人の生き方を反映している。

 障害者のアートに関わって約30年。当初は、自分の知識でサポートしようという目線だったが、活動を続ける中でそれは消えた。純粋に作品が面白く、自然と作者に興味と敬意を持つようになった。同様の人は多くおり、アートは障害者と健常者のコミュニケーションの材料となる。

 社会との関わりが増えれば、障害者の立ち位置も変わっていく。以前からは考えられないぐらい、障害者のアートは注目されており、多様性を認め合う「インクルーシブ社会」、持続可能な開発目標(SDGs)など社会的潮流とも合致している。

 障害者のアートは、周囲に専門的な知識があるからできるのではない。彼らへの興味と愛があってこそ生まれている。内向きな思いを外に出す手助けをしてあげることが、魅力的な作品につながる。

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