日本映画初のカンヌ脚本賞の濱口監督、村上春樹原作の「魅力を決して損なわないように」

フランスで開催中のカンヌ国際映画祭で『ドライブ・マイ・カー』(8月20日公開)が日本映画として史上初となる脚本賞に輝き、共同脚本の大江崇允氏ととも受賞した濱口竜介監督(42)が17日、心境を語った。同作はほかにも国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞という3つの独立賞も受賞。計4冠の偉業となった。

濱口監督は「重要なのは原作の物語だと思います。村上春樹さんが書かれた『ドライブ・マイ・カー』という物語の登場人物の魅力を決して損なわないようにと考えていました。家福とみさき、この二人がすごく抑制された人間性で、自分のことをあまり喋るわけじゃないんだけれども、それぞれ腹のなかに渦巻いている感情というものはあって。それがあるきっかけて出てきてしまう。内にある物が溢れ出してくるという流れを一つの軸として考えていました。実際〝流れ〟というものはものすごく意識して書いていたと思います。滞ることがあってしまったら、この長い物語というのは、観客にとってとても負担になってしまう。淀むことなく進んでいくように、ということは考えていました。それが一体どうすれば出来るかと思ったとき、実際に流れるように書こうと意識していたと思います」と執筆時を振り返った。

村上春樹の原作を掘り下げることに注力した。「とにかく、何度も何度も村上春樹さんの原作を読み、そして原作以外の要素としても、『ドライブ・マイ・カー』が入っている短編小説集『女のいない男たち』の要素をピックアップしていくために読みました。そして原作の中にあった『ワーニャ伯父さん』を何度も何度も読みました。それを繰り替えして自分に要素がインプットされたら、それを一気に流し込むように書くってことをやっていました。どこかで止まってしまったらちょっと戻って、流れが淀まないような形で一気に書くということを何度か繰り返した結果だと思います」と〝流れ〟の重要性を語った。

シーンが進むごとに風景や音の表現が変わっていったことについては「登場人物を変えるためにと言うよりは、登場人物が変わっていくと登場人物の関係性なり感情が変わっていく。すると自然に音が変わっていくってことがあると思います。単純に出てくる感情によって声が違うってことがあるし、関係性によって言葉の出て来方が違うんですよね。ある時はバーっと流れるように溢れてくる、それは中盤以降、家福とみさきの関係性で起こることですけれど、一方で、それだけある種の言葉が溢れた後っていうのは、二人はまた沈黙をする関係に戻っていく。でもそれは最初の頃の沈黙とは意味が違う沈黙と思っています」と語った。さらに、観客に向けて「二人の間の親密さみたいなものを観客が確信して味わったあとのものなので、この沈黙の中に観客はもっと今までよりも分厚い何かを受け取っているんじゃないか、という風に思っています。沈黙の感じ方みたないもの、環境音の聞き取り方みたいなものが、登場人物の変化を通じて観客の耳も変わってくることがあるんじゃないかと思っています」と続けた。

同映画は村上春樹の同名短編小説が原作。妻に先立たれた俳優兼演出家が、ある女性との出会いをきっかけに展開していく物語。西島秀俊、三浦透子、岡田将生、霧島れいか、ら実力派俳優陣が集結した。

フォトコールに参加した(左から)霧島れいか、濱口竜介監督、三浦透子、ソニア・ユアン=現地12日(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会 (C)Kazuko WAKAYAMA

(よろず~ニュース編集部)

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