淡路島に「おかえり」 地域の温かさに一念発起…復活した“女子野球”が目指す先

今春公式戦デビューを果たした淡路ブレイブオーシャンズナイン【写真提供:淡路ブレイブオーシャンズ】

今春公式戦デビューを果たした「淡路ブレイブオーシャンズ」

今春公式戦デビューした「淡路ブレイブオーシャンズ」が、関西女子硬式野球選手権ラッキートーナメント大会で3位と存在感を示した。かつて兵庫・淡路市を本拠地にしていた女子プロ野球・兵庫ディオーネでプレーしていた選手たちが、淡路島への恩返しのために立ち上げたチーム。阪神前監督の金本知憲氏からも激励を受け、目標の日本一へ走り出した。前後編でお届けする。【石川加奈子】

チーム誕生のきっかけは、2019年12月にさかのぼる。女子プロ野球界から引退した田中朋子監督と泉由有樹コーチ兼投手が、あいさつのため淡路市を訪問した。2人は2015~17年に淡路市を本拠地としていた兵庫ディオーネでプレー。当時、島の人たちの熱い応援と優しさに励まされた思い出があった。

「島を離れて2年も経っているのに『おかえり』と言ってもらいました。私たちは普通の人なのに、市長にお会いする機会も設けていただいたりして、感動しました」と田中監督は語る。熱烈な歓迎ぶりに触れ、女子野球復活を望む人たちの声を聞くうちに、2人の心は動いた。すでに野球から離れて一般就職することが決まっていたにもかかわらず、一念発起。「ここでもう一回女子野球の面白さを見せて、恩返しをしたいという気持ちになりました」と移住を決めた。女子プロ野球リーグで育成選手だった川野秀美投手も加わり、3人で昨年2月に引っ越し、新チーム立ち上げに向けて走り出した。

21歳の川野は、泉コーチに誘われ、それまで縁のなかった淡路島にやって来た。「中学生の頃から泉さんのプレーを見て、凄いと思っていました。泉さんが教わったことを全部教わったら、自分も成長できる」と迷うことなく新天地での再出発を決断した。

2016年に女子プロ野球リーグで最多ホールドのタイトルを獲得したことのある泉コーチは、同じ左腕投手である川野の指導に並々ならぬ意欲を示す。「本人は育成で悔しい思いをしたでしょうが、まだまだ伸びしろがあります。新たな川野秀美という選手を育てたいという気持ちです。私自身、けが人が出た時のために選手登録をしていますが、指導者がメイン。田中監督から学びながらやっています」と語る。

泉コーチが全幅の信頼を寄せる田中監督は、女子プロ野球リーグ1期生で一塁手として2度ベストナインを獲得。通算200安打も達成し、2017年に現役を引退してからは2年間京都フローラのコーチを務め、指導経験は豊富だ。「女子野球は、地域に方に盛り上げていただかないと、なかなかうまくいかないと思います。地域の方に力を貸してもらいつつ、チーム自体も成長できるように。一緒につくっていけたら一番良いと思います」と淡路市の地域おこし協力隊として活動しながら、女子野球の普及振興に力を注ぐ。

監督、コーチ、2選手の4人で練習開始…現在は8人が島在住

昨年4月、3人が最初に勧誘したのは、神戸弘陵学園を卒業して淡路市職員になった加藤美夏内野手だった。田中監督と泉コーチ、川野と加藤の4人で練習を開始。「最初はほぼマンツーマン。基礎の基礎から始めて、土台づくりをじっくりやりました」と泉コーチは振り返る。少しずつ人数が増え、現在は、田中監督を含めた15人中8人が島に住み、縫製会社や製麺会社などで働きながら、仕事と野球を両立している。

練習環境は抜群だ。練習は主に東浦サンパークで行い、兵庫ディオーネがいた頃に建設計画が持ち上がった室内練習場や人工芝のフットサル場も使用する。「環境はほかに負けていません。あとは、ここの土地柄。おじいちゃん、おばあちゃんにかわいがってもらうことが多く、ご飯をすごく食べさせてくれますね。差し入れがあると、みんなでお裾分けしていただきます。ありがたいことに、食べるものに困らないですし、野球面では集中できます」と田中監督は魅力の一端をアピールする。

島のおじいちゃん、おばあちゃんだけではない。昨春にチーム名を公募した際には、81通もの応募があった。「小さい子どもたちも応募してくれて、その名前が“淡路モーモー”とかすごくかわいいんです。癒されましたね。3人で直筆のお礼の手紙を全員に書いて送りました」と泉コーチは笑顔で明かす。

その中から選んだのは、知らない土地に飛び込んで来る若い選手の勇敢さを讃える「ブレイブ」と淡路島のきれいな海を表した「オーシャンズ」という言葉。青を基調にしたユニホームは、海と同様にきれいな空をイメージした。

島民に愛されるチームが見据えるのは、日本一のクラブチームだ。選手14人全員が26歳以下と若いチームながら、古谷恵菜投手、泉由希菜捕手、星川あかり内野手の3人が侍ジャパン女子代表に名を連ね、2018年の女子野球ワールドカップで6連覇に貢献した中田友実外野手と実力者がそろっている。だから、デビュー戦となったラッキートーナメント3位の成績にも満足せず、さらなる高みを目指していく。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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