エンゼルス広報のグレース・マクナミーさん 19年間忘れられなかった〝あのワクワク感〟

グレースさん(左から2人目)と、そのご家族(左から長女・彩さん、次女・碧さん、夫・ダンさん=本人提供写真)

【元局アナ青池奈津子のメジャー通信=エンゼルス広報のグレース・マクナミーさん(3)】大リーグを初めて見にくる友人らに、私は遅くとも試合の1時間前には球場に入ることを勧めている。野球ファンでなければなおさらに…。

球場独特の雰囲気、気持ちを高ぶらせるノリのいい爆音のBGM、巨大スクリーンに映し出された趣向を凝らした映像、ギフトショップ、揚げ物のおいしそうなにおい、人々がせわしなく動き回る様子。1周したら、少し上の階に行ってフィールドを見下ろすといい。運が良ければリラックスムードの選手らの打撃練習が見られるし、そうでなくても整備された青い芝生がアートのようにきれいだから。

そして、余裕を持ってビールを買って席に着いたら、選手紹介と国歌斉唱をじっくり聞いてほしい。選手が一人ずつ出てきてスタメンが勢揃いしたところで、ざわついた球場が一瞬にして静まり返る。選手らもビールの売り子らも動きを止め帽子をとり、アカペラ「星条旗」を聴き入ったり口ずさんだり。歌の最後の盛り上がりとともに「準備できたよ」と言わんばかりの大歓声が起こる。

「さあ、プレーボールだ」

この時間だけは、15年間何度見ても飽きない。気持ちがいい。

エンゼルスの広報マネジャー、グレース・マクナミーさんが19年のブランクを空けて球界に復帰した理由の一つも、この時間だった。

「やはり球場に来ると、ファンと選手のエネルギーが絡み合っていて、特に試合開始前のあのワクワク感が…そういう場所に戻ってまたあのワクワク感を感じたいなって思って」

自らエンゼルスにアプローチをかけ、何度かの面接を経て採用に至ったそうだが、野茂マニアの一端を担った彼女以上の候補者はいなかっただろうと思う。

エンゼルスの監督会見には必ずノートを持ったグレースさんがいるが、会見中に日本語通訳してくれる広報は、私が知る限り彼女しかいない。

「タイミングもすごく良かった」とグレースさん。大谷翔平投手のエンゼルス入団が、2人の娘さん(現在大学生と高校生)からちょうど手が離れ始めた時だったのだ。

大リーガーのスケジュールが大変なら、選手より前に出社し、選手の帰宅を見送り、オフシーズンにも働く広報のスケジュールは過酷。「慣れてしまうと、結構そういうものなのかな」なんてグレースさんは言うが、ナイターの試合でも午前10時半ごろには出社し、日付が変わってからやっと帰路につけるなんてことはざらにあるし、出張もあるため家族の協力なしには務まらないのだ。

「今回一番の違いはキャンプですね。ドジャースの時は独り身だったので、エンゼルスのキャンプは家族と離れるのがちょっとつらいです。けれど、皆しっかり支えてくれて、私がいない間も家事とかやってくれているので、すごく助かります。娘たちも年ごろなので、花嫁修業じゃないですけど、独り立ちの修業にはすごくいいって思いますね。でも帰ると何もやってくれなくて『あなたたち6週間、どういうふうに生活していたの!?』って聞くと『ママがいない時は全然大丈夫なんだよ』ですって」

ファクスでやりとりしていた時代から、携帯のグループテキストで会見連絡をする時代になっても、そういうところは変わらないものだ。そんな家族の話をする時のグレースさんは幸せそうだった。=続く=

☆グレース・マクナミー 48歳。エンゼルスの広報マネジャー。ロサンゼルス生まれの日系アメリカ人で、1995年から野茂が移籍する99年までドジャース広報部に在籍。その後ゲーム会社などの広報を経て、大谷のエンゼルス加入で2018年、約20年ぶりに野球界復帰。

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