豪雨災害に見舞われた近郊。ニュルブルクリンクやモータースポーツ界が支援に動く

 7月14〜15日、ドイツ西南部を中心にベルギー、ルクセンブルクなどに甚大な被害を及ぼした豪雨災害。集中豪雨により堤防が決壊し、河川が氾濫するなどして大洪水の被害に見舞われた。ドイツでは、世界屈指のコースであるニュルブルクリンクがあるラインランド-プファルツ州や隣接するノルドライン・ヴェストファーレン州では特に被害が甚大で、洪水や土砂崩れ災害で家屋が流されている。モータースポーツ関係者にも被害が出ているが、一方でニュル自体、さらに周辺のレーシングチームが災害支援に乗り出した。

■ニュルブルクリンクが災害支援前線基地に

 今回の豪雨災害では、ベルギーではスパ・フランコルシャンの場内路が崩壊したほか、ドイツでは特に被害が大きかったニュルブルクリンク近郊のバード・ノイエンアールやアールヴァイラー地区では依然として多数の行方不明者や死傷者が出ている。

 モータースポーツ関係者の多くも被災しており、災害発生後からニュル近郊のレース村であるモイスパトにあるマンタイ・レーシングでは、SNSを通じてライフラインが停止し、従業員が被災していることやボランティア活動に出ているため、ファクトリーへの連絡がつきにくいことに理解を求めるメッセージを出している。

 そんななか、多くの国際レースで使用されるニュルブルクリンクのグランプリコースのパドックは、急遽地区の救急救助用の車両基地となり、ドイツ各地から集まってきた緊急車両の集合所のひとつとして稼働し、ピットには簡易ベッドが並べられ、それらの救助作業に携わる人たちの宿泊休憩所として利用されているほか、コースは軍や消防、ADAC(ドイツ自動車連盟)の救助・ドクターヘリ等のヘリポートとしても活用されている。

 敷地内にあるサーキットホテルのドリントとリントナー、サーキット近郊のグループ施設のコテージ等もすべて、家屋を失ったり大きなダメージを受け、居住不可能となった被災者が無償で受け入れられ、避難所として活用されている。また、災害があった週末に予定をされていたADACトラックGPの中止を受けて、その分のキャンセルがあったホテルやペンションも無償で被災者を受け入れている。

 ADACトラックGPのチーム関係者も任意の希望者が集まり、レースはなくなった代わりに災害救助や水害後の後片付けのボランティアに従事しているという。他にも多くのモータースポーツ関係者が重機やバン、クアッド(四輪バギー)等を提供して、災害の後片付け等にボランティアとして参加している。また、ドイツでは多くのチームがケータリングの機材や発電機を所有していることから、ライフラインが停止している地区での炊き出し部隊としても活躍している。

ニュルブルクリンクのグランドスタンド裏に列をなす緊急車両
ニュルブルクリンクのピット内は、救助作業に携わる人たちの宿泊休憩所として利用されている。
ニュルのグランプリコースで離着陸する救助ヘリコプター

■レーシングチームやドライバーからも支援

 モータースポーツを中心にした支援の輪も広がっている。DMSBドイツモータースポーツ協会やDSKドイツスポーツドライバー連合、さらにティモ・ベルンハルト、ベルント・シュナイダー、ブルーノ・シュペングラー、レネ・ラスト、ケルヴィンとシェルドンのファン・デル・リンデ兄弟、ダニエル・ジュンカデラ、マーロ・エンゲルなど多くのプロドライバーが中心となり、災害発生数時間後にはサポートプロジェクトを結成し、即座に募金活動を開始した。

「いつもこのニュルブルクリンクで素晴らしいレースが開催されているのは、地域の皆さんのサポートのおかげだ。今度は僕たちが皆さんのサポートをすべき」と立ち上がったプロジェクトだが、ニュル24時間では970名ものコースマーシャルがボランティアで活動し、さらにレースウイークのニュル近辺の交通整理やセキュリティ、レース後のノルドシュライフェの観客が入る部分の清掃等、合計で1000名以上の地域ボランティアの方々によってレースが成り立っていることから、必然とも言えるかもしれない。

 またポルシェカレラカップ等で活躍するMRSレーシング、オッシャースレーベンに拠点を置くジュニアフォーミュラでおなじみのモトパークはサーキットと共同で、地域住民や他のチームからの支援物資や募金を集め、トランスポーターに積み込んで災害地へ届けている。当初は2チームともニュルへ物資搬送を予定していたものの、イベントホールを利用したボランティアセンターでは、設置2日間ですでに支援物資がキャパオーバーとなり、現在は物資の受け入れを一時休止しているため、配達場所を変更した。

 近隣の市町村や災害地の多くの地域では、まだ十分に支援物資が届いていない地域もあり、必要とされる場所へとフレキシブルに対応している。「いまこそニュルファミリーの一員が立ち上がるべき」と、チームやドライバー等が独自にオークションや募金活動も精力的に行われている。

MRSレーシングから運ばれた災害支援物資
イベントホールに設けられたボランティアセンターには災害物資が集められた。

■ニュルブルクリンクでのイベント開催は

 そんな状況下だが、ニュルブルクリンクでは7月31日~8月1日にFIAワールドラリークロス、8月6日~8日にADAC GTマスターズ、8月20~22日にはDTMドイツツーリングカー選手権など、多くのイベント開催が予定されているが、開催されるかどうかは現時点では発表されていない。

 近隣地域が村ごと流されたり、日ごろレース開催を支えるコースマーシャルや多くのレース関係者も被災しているほか、サーキットおよび地域の救急・消防、警察などの車両やマンパワーは被災者の人命救助と復興作業を第一に活動を行うべきとあり、レースの延期や中止が発表される可能性が多いにありそうだ。

 また、7月22~24日に開催を予定していたADAC アイフェルラリーのコースが被災地ということもあり、開催を中止し、その代わりに大会事務局を通じて、募金活動に切り替えることをプレスリリースで発表した。すでにチームが振込み済みのエントリー費用や購入済の観覧チケットは返金処理がされるが、それを募金に切り替える事も大歓迎だという。

ニュルブルクリンク近郊の豪雨災害の様子。モータースポーツ関係者から送られてきた写真。
ニュルブルクリンクのパドックに集まった緊急車両たち。

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