侍の命運を握る田中将大の“役割” 高橋慶彦氏が「赤ヘル軍団」に重ねる強さの原動力

侍ジャパン・田中将大【写真:Getty Images】

エースはオリ山本「群を抜いていい球を投げている」

東京五輪で悲願の金メダル獲得を目指し、強化合宿に臨んでいる侍ジャパン。ソフトバンクの柳田悠岐外野手が初日から別メニュー調整するなど、不安要素も。1970年代後半から80年代にかけて「1番・遊撃手」として広島黄金期を牽引した野球評論家・高橋慶彦氏は、「エースはオリックス・山本由伸」とした上で、精神的支柱としての役割を果たす存在がなおさら重要になると見る。

「エースは山本だろうね。ナンバーワンでしょう。群を抜いていい球を投げているよ」と高橋氏。確かに、山本は最速157キロの速球をはじめ、150キロを超えることもあるカットボール、シュート、140キロ台後半のフォークがあり、タイミングを外すスライダー、110キロ台のカーブの精度も高い。前半戦を終え、リーグトップの防御率1.82、121奪三振、トップタイの9勝(5敗)をマークし、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。

しかも、2018年にはリリーフだけで54試合に登板し、32ホールド1セーブ、防御率2.89。侍ジャパンとしても2019年の「第2回 WBSC プレミア12」で、リリーフで5試合に登板し、防御率1.80と抑えた実績がある。稲葉篤紀監督も「先発、リリーフ両方で期待している」と大車輪の働きを求めている。

一方で、エースを支えていく存在も不可欠。高橋氏は「大舞台での経験豊富なマー君は軸というより、精神的な柱として必要だと思う」と指摘する。8年ぶりに日本球界に復帰した楽天・田中将大投手は前半戦4勝5敗、防御率2.86と黒星先行ながら、百戦錬磨の経験は絶対に侍を救う。

広島で活躍した高橋慶彦氏【写真:編集部】

田中将は「年齢を重ねて投球はうまくなっている」

「チームが機能するかどうかは、人間的に頼れる選手がいるかどうかで大きく変わる。2016年から広島が3連覇した時には新井貴浩がいた。俺たちの時代は、山本浩二さんと衣笠祥雄さんが柱だった。人間がやる以上、相談役や心の支えが必要だ。しかもマー君は今季もある程度成績を残しているから理想的」と説明する。

東京五輪出場メンバーの中で、田中将は中日・大野雄大投手、巨人・坂本勇人内野手と並んで最年長。しかも、過去に五輪(2008年北京大会)を経験している唯一の選手だ。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)にも2度出場し、ヤンキースで7年間活躍した。今季成績以上に、国際経験が圧倒的である。

稲葉監督は本来、菅野にも万全の状態ではないことは承知の上で、同様の役割を期待していたはず。出場辞退に至ったことで、田中将の存在意義はなおさら大きくなる。

高橋氏は今季の田中将の投球を「オーラがなくなったような気もしたが、それは8年前の最高の状態のイメージが強過ぎるからであって、年齢を重ねてピッチングはうまくなっているのではないか」と評する。悲願に向け、重要な役割を担うことになりそうだ。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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